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04 癒やしの時間
食事を済ませて電車で向かった先は、職場から三駅の、高級住宅街だと言われる場所だった。驚きながら亘についていくと、駅から徒歩五分ほどの高層マンションの前で立ち止まる。こんな都会の駅に住んでいることも驚いたけれど、さらに駅近の高層マンションなんて、住んでいる人は世界が違う人だと思っていた。まさか、身近にそんな人がいるなんて。
「亘くんここに住んでるの?」
「引っ越したのは最近だけどね」
「……す、すごいね」
「そう? 駅が便利なんだ」
「それはそうだろうね……」
厳重なマンションロビーを抜けてエレベーターに乗り込む。エレベーター内の階数ボタンの多さに驚く。四十六もある階数をどんどん上がって行き、三十階で降りた。静かな通路を歩いて、角部屋の扉を開ける。当たり前のように家に帰る亘の後ろ姿を眺めていたらまるで別人について来ているようだった。
「カウンセラーってそんなに……すごいの?」
「まあ、俺は資格あるし、他のこともいろいろやってるからね。どうぞ」
亘が部屋の明かりをつけると、明るすぎない上品な照明が点灯し、部屋を照らす。
「ひ、広い……」
信じられない。里帆がひとり暮らししている部屋とはまるで違う。まず、里帆の部屋は1Kだ。がんばっても、ギリギリのところだった。なのに亘の家は見る限り、部屋数がリビングダイニングの他に三つはありそうだ。
リビングは広く、映画を観たくなるような大きなテレビとその正面にはカフェにあるような木製の低めのテーブルと二人掛けのブラックの皮ソファが置いてある。居心地が良さそうだ。ダイニングにはテーブルがないので、きっとソファで過ごすことが多いのだろう。人の家、しかも広い家は新鮮できょろきょろと見回してしまう。
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