04 癒やしの時間

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「髪濡れてるぞ」  頭をわしわしと掴まれた。その指先の動きで、濡れた髪を拭いてくれているのだとわかった。 「突然どうしたの亘くんっ」 「あれ。昔もこういうことしてなかったっけ」 「……してもらった、かも」  それはもうかなり昔の話だ。里帆が小学生から中学に入るまで、里帆の両親が共働きだったので隣だった亘の家によくお邪魔していた。学校から帰って亘に遊んでもらい、そのまま夕飯を一緒に食べて――。 「一緒に風呂にも入ったし」 「っ!」 「今さら恥ずかしがることもないだろ」 「そう……なんだけど……」  亘と再会するまで、忘れていたことばかりだ。小学生の頃は恥ずかしさなんて知らずに亘と一緒にお風呂に入り、同じベッドで一緒に眠ることも多かった。今思えば、兄妹でもない人とそんなことをしていたなんて考えると恥ずかしい。  でも今、優しく髪を拭かれているのは心地よかった。人にこんなことをしてもらうなんて、子ども以来だろう。大人になった今ではこんなこと恋人にすらしてもらえなかった。 「髪乾かしてやるな」 「えっ」  そんなことまでいいよ、と言おうと振り向いたら亘はもう背を向けていた。すぐに戻ってきた彼はドライヤーを手にして、にっこりと笑った。ソファの隣に座り、「あっち向いて」と里帆を促す。亘だって働いて疲れているだろうに、こんなことをさせるなんて申し訳ない。 「悪いよ、亘くん」 「いいっていいって」 「……でも」 「そのかわり、あとでゆっくり聞かせて。里帆の悩み」  そんなの、亘の得にならないのに。と思いながらも、里帆は亘の言う通りに彼に背を向けた。ゴーっというドライヤーの音と優しい手つきが気持ちよくて、里帆はつい甘えてしまった。スープを飲みながら亘に髪を乾かしてもらっている。こんな贅沢なことがあっていいのかな。里帆はゆったりとした時間を噛み締めるように目をつむっていた。うとうとと眠くなってきた頃、音が止んだ。 「よし、オッケー」 「亘くんありがとう」 「じゃあ俺も風呂入ってくるから」  ドライヤーを持って立ち上がる亘は部屋を出る前に里帆を振り返った。 「歯磨いたらベッドで待ってて」 「え」 「先に寝たらだめだぞ」 「あ……うん」  まさか、一緒に眠るつもり?  里帆は亘の背中が見えなくなるまで固まっていた。
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