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05 恋人ごっこのはじまり
亘に言われるまま歯を磨いて、ドアが開いたままだったベッドルームに足を踏み入れる。入った瞬間ドキリとしてしまった。大人の男性の部屋だったからだ。当たり前だけど学生の頃のような部屋ではなく、シックで落ち着いた色合いの大人の部屋だった。ベッドはネイビーで統一されていて、カーテンや家具も落ち着いた色だ。亘は昔から落ち着いてはいたけれど、大人になってからの彼を知らなかったので別人の家に来ているような感覚だった。
恐る恐るベッドに入る。本当にいいのかな、と思いながら中に入った。セミダブルくらいのベッドは広く気持ちがいい。このまますぐに眠れそうだ。でも亘が待ってて、と言っていたのでベッドの中でスマホをぼんやり眺めながら、彼を待った。
しばらくして、ベッドルームのドアが開いた。
「お待たせ。まだ寝てないか?」
「う、うん。ちゃんと待ってたよ」
「よし」
お風呂上りの亘はルームウェアに着替えていて、髪の毛も乾かしたばかりなのか前髪は前髪はストンと額を覆っていてまた印象が変わった。
「昔みたいに一緒のベッドで寝る気だったけど、大丈夫か? 嫌なら俺はソファで……」
「ううん、大丈夫」
幼い頃はよく一緒のベッドで眠っていた。亘は今でも里帆のことを妹かなにかだと思っているんだろうか。里帆はまだ大人になった亘に慣れていないというのに。
「電気消すよ」
亘も里帆のいるベッドの中に入ってくる。一気にベッドの中の温度が上がった。
「寝そうになったらそのまま寝てもいいよ」
「ん……ありがと」
気持ちがよくて眠ってしまいたいけれど、お泊まりに興奮して逆に目が冴えてきた。
「……里帆、いまどんな仕事してんの?」
「あ」
そうだった。また忘れるところだった。亘は里帆の話を聞くために家に連れてきてくれたんだ。
遠い昔一緒のベッドでこそこそと内緒話をしていたように、ベッドの中で向き合う。そこには甘い雰囲気などはなく亘が真剣に話を聞いてくれようとしていることがわかり、里帆もちゃんと誤魔化さずに話を聞いてもらいたいと思った。
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