1039人が本棚に入れています
本棚に追加
「……社外秘だから、絶対秘密にしてくれる?」
「もちろん。商業カウンセラーは絶対に口外しません。って契約書にも書いてあるから安心して」
確かにそうでなければ社員も心を開いて相談することはできないだろう。こうやって社外で相談をしていても適用されるかはわからないけれど、亘のことは信用できる。
「……うちのメーカーで、新しい商品を開発することになったの」
「化粧品とか?」
そう思うのが当たり前だ。そうだったらどんなに喜んでいたことか。
「……ラブグッズ」
「え」
亘の表情が固まる。
「ほ、ほら言いづらいでしょ?」
「まあな……びっくりした」
「それでね、私がそのプロジェクトリーダーを任されることになったの。任せてもらえてうれしかったのに……私には無理だよ……」
「どうして無理?」
「だってラブグッズだよ? そんなの……」
「恥ずかしいとか?」
「それもあるけど……恥ずかしいっていうより、私には使う人の気持ちがわからないもん」
「……使ったことないとかか」
こくりとうなずいた。
「だ、って……そもそも経験、ないし」
ラブグッズを使う以前の問題だ。一人でも使ったことはないし、恋人とももちろんない。彼氏がいたことはあるけれど、学生の頃のキス止まりのままここまで来てしまった。
「そうなのか?」
「そうなの!」
恥ずかしいことまで暴露してしまった。でもここまで打ち明けなければ、里帆の悩みは解決しない。
「だから、使う人のことを考えて作りたいのに、なんにも思い浮かばない。私には無理だよ」
仕事なのに、情けない。仕事だと割り切って考えられるはずのことが今の里帆にはそこまでにもいっていない。そもそも考えられないのだ。
誰かとラブグッズを使っているところを想像することができない。
最初のコメントを投稿しよう!