05 恋人ごっこのはじまり

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「えらいな、里帆は」 「え?」  亘の手が伸びてきて、里帆の頭をそっと撫でた。 「てっきり恥ずかしいから嫌なんだと思ったら、使う人のことを考えて作りたいって、すごくえらいと思う」 「……普通のことだよ……」  今の仕事はそういう仕事だ。使う人のことを考えてアイディアを出し、制作し、試すことの繰り返しだ。もちろん会社や自分たちのプライドなどもあるけれど、根本はお客様だ。そこを褒められるとは思わなかった。 「普通のことでも、俺からしたらすごいと思うよ」  亘に褒められるたび、くすぐったい気持ちになる。だからといって今の自分を誇れるかというと違った。 「里帆が作ろうとしてるものはさ、一人用?」 「うーんどちらかといえば、恋人同士で使う用かな。そういうコンセプトだった」  女性が買いやすい見た目、ということもあるけれど恋人同士の甘い刺激、なんてコンセプトがあるくらいだからきっと二人で使うんだろう。どういう風に使うかはわからないけれど。 「それなら俺も協力しようか」 「……どうやって?」  まさか二人で使うなんてことはできないだろうし、里帆は亘の顔をぽかんと見つめる。 「里帆はいま彼氏いないんだっけ」 「……いません」  彼氏がいたのは大学時代の話で、情けないことに別れてからはずっと一人だ。社内も女性が多いし、出会いもなく出会おうと動いてもいなかった。 「じゃあ、俺が恋人になるっていうのはどう?」 「ええっ!」  里帆は思わず起き上がっていた。
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