1039人が本棚に入れています
本棚に追加
「えらいな、里帆は」
「え?」
亘の手が伸びてきて、里帆の頭をそっと撫でた。
「てっきり恥ずかしいから嫌なんだと思ったら、使う人のことを考えて作りたいって、すごくえらいと思う」
「……普通のことだよ……」
今の仕事はそういう仕事だ。使う人のことを考えてアイディアを出し、制作し、試すことの繰り返しだ。もちろん会社や自分たちのプライドなどもあるけれど、根本はお客様だ。そこを褒められるとは思わなかった。
「普通のことでも、俺からしたらすごいと思うよ」
亘に褒められるたび、くすぐったい気持ちになる。だからといって今の自分を誇れるかというと違った。
「里帆が作ろうとしてるものはさ、一人用?」
「うーんどちらかといえば、恋人同士で使う用かな。そういうコンセプトだった」
女性が買いやすい見た目、ということもあるけれど恋人同士の甘い刺激、なんてコンセプトがあるくらいだからきっと二人で使うんだろう。どういう風に使うかはわからないけれど。
「それなら俺も協力しようか」
「……どうやって?」
まさか二人で使うなんてことはできないだろうし、里帆は亘の顔をぽかんと見つめる。
「里帆はいま彼氏いないんだっけ」
「……いません」
彼氏がいたのは大学時代の話で、情けないことに別れてからはずっと一人だ。社内も女性が多いし、出会いもなく出会おうと動いてもいなかった。
「じゃあ、俺が恋人になるっていうのはどう?」
「ええっ!」
里帆は思わず起き上がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!