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07 お弁当
カチカチ、とマウスをクリックする。パソコンの画面には「予約完了」という文字が表示された。一息ついて、持ってきていたお弁当の卵焼きをぱくりと口に放り込んだ。
「あれ、お弁当なんて珍しいね」
「まあね……」
里帆は気まずい気持ちでお弁当を手で覆った。お昼休み、美琴がたまたま通りかかった。書類を持っているみたいだから企画部に用事があるんだろう。美琴も忙しそうだ。
「なんで隠すの、おいしそうじゃん」
自分で作ったものだったら隠すこともなかったけれど、美琴は、里帆が料理が苦手だということを知っているはずだ。
「れ、冷凍食品ばっかりだよ~」
「へ~最近の冷凍はすごいねぇ」
感心しながら美琴は立ち去って行った。ほっと息を吐いて、お弁当に視線を落とす。白いごはんに色とりどりのおかず。卵焼きやミニハンバーグ、温野菜とポテトサラダ。凝ったものではないけれど、ずっとコンビニのお弁当や、ひどい時は栄養補助食品などでまかなっていたものがお手製のお弁当になったのはすごい変化だ。とっさに嘘をついてしまったけれど、もちろん冷凍食品ではない。
とはいっても作ったのは里帆ではなく、亘だ。
恋人ごっこをしてもらうようになってまだ三日目。
金曜日に亘の家に泊まり、土曜日は自宅へ帰った。そして空いている部屋があるからと、里帆の荷物を置かせてくれるというのでもう一度日曜日亘の家にお邪魔した。そのまま泊まって今日は亘の家から出社した。
恋人っぽいことはできていないにしても、里帆の生活全般を心配した亘は、里帆が亘の家に泊まった次の日はお弁当を用意してくれることになった。もう完全に母親のようだ。亘も自分のお弁当を作っているらしく、里帆にとってはこれほどありがたいことはなかった。亘の家で眠った次の日は体調がしっかりしていて食欲もまあまあ戻ってきている。なので亘のお弁当がおいしく食べられるのだ。
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