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「もしかして……亘くん?」
「そう。びっくりした、久しぶりだな」
驚いた顔から一気に表情を崩す。その笑顔は、はっきりと昔の彼を思い出させた。
彼――桐ケ谷亘は、里帆の幼なじみだ。
「大人っぽくて一瞬わからなかったよ」
「里帆もな」
「社会人になってから会ってないもんね」
四歳年上の亘は先に社会人になり、忙しさからか連絡が取れなくなっていた。もともと隣に住んでいた彼は社会人になってすぐに一人暮らしを始めて出て行ってしまっているので偶然会うこともない。なのにこんな場所で再会するなんて。
驚きすぎてぼーっと亘を見上げてしまう。
もともと身長の高い彼だったけれど、前よりも身体つきがしっかりしていて男性らしさを感じる。黒くてさらりとした髪は昔と変わらず、笑った顔は優しく、そのままでほっとした。
「……亘くんがカウンセラーなんだ」
「ああそうだカウンセリングだったな。とりあえず入って」
「う、うん」
奥の部屋へ通されると、そこは白を基調にした清潔感のある部屋だった。大きめの窓は景色がよく、光が差し込んでいる。真ん中にテーブルがあり、それを挟むように大きめのソファが二つある。
「ハーブティー大丈夫か?」
「うん、好き」
部屋の中にドリンクサーバーがあり、亘が飲み物を用意してテーブルの上に置いてくれた。
「……元気だったか?」
淹れてくれたハーブティーに口をつけると、正面のソファに座った亘のやさしい声が聞こえた。
「うん。亘くんは?」
「俺も元気だったよ。昔から泣き虫の里帆のこと、気になってたけど」
「やめてよ」
二人で笑い合う。亘は年上だからか、昔から里帆のことを気にかけてくれていて、いいお兄さん的存在だったし、里帆も優しい彼のことが大好きだった。
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