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過去に囚われた女性①
「この夢を斬ってしまっていいのですか」
学校のトイレに入ってきた女性に夢斬りは尋ねる。学校の汚れた古いトイレに、白髪の美女は全く不釣り合いである。そこに入ってきた女性もまた二十代後半と、学校のトイレにいるには不自然だ。
「夢、そうか、これはまたいつもの夢……」
女性の瞳の表面がゆらりと揺れる。静かに、どこか無理矢理瞼を閉じて小さく首を振った。
「……はい。斬ってください。私はずっとここにいちゃいけないんです」
「わかりました」
夢斬りは刀を手に寄りかかっていた壁から離れた。夢斬りにできることは切ってくれと言われた夢を斬ることだけ。
トイレを出て教室へ向かう。女性の背からは苦しさが漂っていた。斬ってくれと言われた夢はこれまで全て悪夢。そもそも悪夢でなければ解放されたいとも思わないだろう。それから解放するというのは救いであるはずなのに。この中にいる彼女は幸せそうで、でも夢を斬るとなると苦しげで。夢斬りにはその理由がわからない。
不意に、廊下が騒がしくなった。ばたばたと足音を立てて向こうから二人の女子がやってくる。誰かの名前を呼んだ。おそらくこの女性の。前にいる女性の姿が変わった。一人の女子になった。着ていたOL的な服はセーラー服になっている。斬るべきものはこれか。
さっと刀を抜いて女性の背目がけ振り下ろす。
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