叶えられなかった投手①

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叶えられなかった投手①

 周囲の熱、ブラスバンドの演奏と手拍子。正面の大きな電光掲示板には数字が示されていた。脇にある三色七つのランプは全て灯っている。夢斬りがそれを見るのは初めてだった。でも、知っている。これは野球。高校野球県予選の準決勝。球場に吹く初夏の風。三対三、九回裏二アウトフルカウントで二、三塁。逆転サヨナラのチャンス。そんな文章が自然と夢斬りの脳裏に浮かぶ。  この夢は、グラウンドの真ん中に立つ投手の夢だ。顎から滴る汗。彼がその一球を投げた直後、会場がざわめいた。打者の肩にボールが当たったらしい。二アウト満塁。捕手が投手の元に駆け寄り、短く言葉を交わす。そして一球、二球、三球。Bの横に緑のランプが三つ。ブラスバンドの演奏がますます熱くなる。投手は捕手を見て一つ頷くと、腕を振った。  キャッチャーの手前でバウンドするボール。投手が他より少しだけ高くなった土の上で膝をつく。ゆっくりとホームベースを踏むランナー。投手は顔に土がつくのも構わず、地面に突っ伏す。歓喜に走り出てくる右側と、お互いの肩を抱きながらやっとの思いで集まってくるグラウンドの選手たち。人目も憚らず咽び泣く投手。  これが、今回の夢。
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