祠堂学院中等部・高等部合同卒業式

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 表では先に証書を受け取った生徒達が皆んなで写真を撮り合ったりしている。  親(父兄)達もホールから出始めていた。  暖かい、良く晴れた日。  少し風が強くて、今を盛りと咲き誇っている早咲きの桜も5割方散り始めている。  でも、昨夜まで降り続いていた雨も朝には跡形もなく晴れ上がり、 卒業式にはうってつけの天気だった。 「―― よっ、絢音」  今まで自分の好きで、高3在学を続けてきた柾也だが、今期は卒業する事にしたようだ。  柾也は6対4の割合で男子の方が多い今回の卒業生の中でも群を抜いて目立つ美丈夫。      「さっきのスピーチ、なかなかのもんだったぜ」  演台に立ったのは利沙だが、スピーチの原稿を書いたのは絢音だった。    「そーお? サンキュ」 「で、今夜の送別会、もちろんお前も出るだろ?」 「場所、何処だったけ?」 「幸作の家。飲み放題食い放題で会費は千円ぽっきり、どうよ?」 「そーだなぁ……皆んなでわいわい気兼ねなく騒げるのも今のうちだよねぇ」  するとその時、校舎の方から群れをなして女子達がこちらへやって来るのが目に入った。     『 手嶌せんぱ~い!! 』  それを見た柾也は一気に色を失くす。 「げっ。もう、勘弁してくれよぉ ―― ちょっくらオレふけてくるな」  と、あの女子達から逃げるため一目散に走り去った。  そんな柾也と、追っかけの女子達を苦笑しつつ見送る。 「―― あーちゃーん、こんな所におったんかぁ、わい、めっちゃ探したんやどー」  そう言って、ネコ並みの人懐っこさで背後からヒシっと和巴へ抱きついてきたのは鮫島祐太朗。  卒業単位の懸かった試験の前日、隣町の不良グループと傷害事件を起こし無期停学処分を受けて留年。    だから今日は在校生としての参加だ。  因みに煌龍会の二次団体・鮫島組の次男坊である。   「あんたねぇ、ええ加減そうやって人にベタベタまとわりつくんは止めてぇな。うざいっ」 「グサッ!! ……今のひと言マジ傷ついた……」   そこへ  『ゴルァ!! ゆうっ。てめぇまた絢音にしょうもないちょっかい出してたのか?! 』  と、先ほどの女子達をようやく撒いてきた柾也がやって来た。 「いい加減にしねぇと、そのうちマジうちの親父にぶっ殺されるぞ」 「ふーんだ。どうせわいの事なんか眼中なかったくせに偉そうな事言うなや」  と、祐太朗は拗ねたようにそっぽを向いた。 「ほら、コレ、約束の」  と、柾也は祐太朗の手に何かを握らせた。     開いた祐太朗の手のひらにはスーツの前ボタン(第2ボタン)。  一瞬、祐太朗は物凄く嬉しそうに顔をほころばせたが、またすぐに元の仏頂面に戻る。    「こんなもんだけじゃ誤魔化されないんだから」 「だからぁ、送別会が終わったら今夜は東京のラブホでしっぽりと。な?」 「…………」  周囲にいる学生達が一様にざわつき始める。  その原因は、正門に前の路肩に停車したクラウン・マジェスタの運転席から降り立ったスーツ姿の深大寺虎河。                                                                               手にアネモネとラベンダーの花束を持っている。          それぞれの花言葉は ――  固い誓い・極限の愛・あなたを待っています。 『うわぁ ―― めっちゃイケメン!』   『誰の出迎えだろねー』 『あれっ、あの人の事どこかで見たような……』 『んな事どうだってかまへんわ。写メとっちゃおーっと』      虎河が一歩 一歩、自分に近づいてくる度、絢音の鼓動は打つスピードを速める。  虎河が絢音の前にピタリと立ち止まったところで、柾也と利沙と祐太朗は校舎の昇降口へ去る。  しかし、今や2人(絢音と虎河)は生徒達の注目の的だ。 「えっと ―― こんな時迎えに来たりしてごめん。親父が行けって煩くて……今、時間ある?」 「う、うん……」  そう答えたのは、周囲の視線に耐えられなかったから。  絢音と虎河は路肩に停車中の車へ向かう。     実は絢音、挙式は6月に入ってからだが、4月1日には嵯峨野書房で本格的に仕事も始めるので、気忙しくなる前に挙式に先駆け虎河と同居する事になったのだ。  ま、これから義父となる深大寺にしてみれば、嫁(予定)絢音の気持ちが変わる前に息子へ゛さっさとチェックメイトしてしまえ!゛という意味合いも含め、絢音を迎えに行かせたのだろうが、絢音にしてしてみれば、もう少し卒業式の余韻に浸っていたかった、というのが偽らざる本音だ。
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