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もうそろそろ現れるかなと思った矢先、ピンクの着ぐるみが不気味な笑顔を張り付けてゆっくりとこちらに近づいてくるのが見えた。
「願いを三つ、叶えて進ぜよう」
ウサギがそれっぽく宣う。
念のためと思い、ウサギの頭部を両手でがっちり掴んで上下左右に振り回すと、痛い痛いようと聞き慣れた親友の泣き言が聞こえてきたので、僕はほっとして手を離す。
「なんでもいいの?」
「なんでも叶うよ」
「大体の願いはすでに叶ってるからなあ」
「お前の人生どうなってんの?」
「本当に大丈夫?」
「信じなさい」
ウサギが胸を拳で打つ。
「じゃあ、カレーが食べたい」
へげ。と親友が変な声を上げるのと同時に、銀食器に載ったエスニックでスパイシーなカレーが目の前に現れる。いつの間にか首にはナプキンが巻かれ、僕はスプーンを握りしめてテーブルクロスの敷かれた席に座っていた。
「おいしそー」
「俺の知ってるカレーの色じゃない……」
親友が動揺した声を漏らすのを無視してカレーを頬張る。うん、百点満点のカレーだ。
「次はどうする?」
一心不乱にカレーを流し込んでいると、ウサギが頭を傾けて尋ねてきた。
赤い目を見つめ返しながら、これってちゃんと目が合ってるのかなと疑問に思う。
「明日の約束覚えてる?」
「覚えてるよ」
「じゃあ、天気は晴れじゃないとだね」
「いいねー」
その返事の直後、着ぐるみからどうしようもないほどに不快な音が発せられた。形を維持できなくなったらしい胴体部分が適当に畳んだ洗濯物みたいにくしゃりとその場にへたり込む。
椅子から立ち上がり、ウサギの頭部を取り上げて覗き込む。
中で、親友がぐちゃぐちゃになっていた。
「やっぱり大丈夫じゃなかったじゃん」
やれやれ。僕はゆっくりと首を振った。
せっかく晴れることは確定なのに、これでは意味がない。
頭をそっと床に置く。
「親友を元に戻してください」
何度目かの三回目のお願いをしてしばらく待っていると、遠くの方から今度は赤いクマの着ぐるみが近づいてくるのが見えた。
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