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また固技も、相手を傷つけずに一定時間固定する技の有効性は著しく低いと言える。本来、古武術における固技は、相手を地に転がし有利な態勢から打突や短刀を用いて止めとして使用する。20秒、30秒抑え込んで一本するのは、それだけの時間があれば止めをさせる意であって、戦闘不能にできる訳では無い。
自己制限が多い柔道は格闘技として有利とは言い難い。
しかし、明治時代、柔道家・前田光世(1878~1941年)は柔道の強さを示すために、16ヶ国を渡り海外の猛者たちと戦い2000勝を誇ったという事例があるが、これは柔道というよりも前田光世自身の強さといえる。
青葉の話しを聞いていて、相談された理由が段々と分かって来る。
「打撃の実践って、どういうこと?」
光希は尋ねる。
「巻藁突き」
青葉は答えた。
「巻藁って、空手の稽古法にある巻藁?」
「そう。一徹は、体育館裏に巻藁を作って突く練習をしているんだ。一徹が変わってしまったのを思い出すと、その巻藁突きを行ったあたりからって思うんだ。光希って武術(中国武術)をしているんだろ。何か分かるんじゃないかなって思ったんだ」
青葉の言葉に、光希は考える。武術はしてはいるが、決して人を教える程、功がなっている訳ではない。
だが、力になりたいという気持ちはあった。
光希は一徹に会ってみることにした。
放課後。
一徹は部活後に、巻藁突きを行っているのは聞いていたので、青葉と一緒に体育館裏に行くと、すぐに一徹の姿を見つけた。
一徹は、柔道着のまま巻藁を突いていた。
一徹は青葉と光希に気付く。
一徹の顔が強張った。
青葉が言う通りだ。一徹は、以前とは雰囲気が違っていた。以前は自信に満ち溢れていた表情は影を潜め、どこか虚空を見つめるような目をしていた。
青葉が一徹に話しかける。
光希は緊張しながら見守る。
すると一徹は、光希の前に立った。
「どうした佐京。俺のしていることが何か変なのか?」
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