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光希は一徹の体格と巻藁を見る。
「田麦君。手をみせて」
光希が頼むと、一徹は右手を差し出す。
人差し指から小指にかけての第三関節全てにタコができていた。それを見て光希は確信する。
一徹は打撃の練習は、間違っていた。
それを口にすると、一徹は拳を握りしめ怒り出した。
それはそうだ。努力して築き上げてきたものを否定されたのだ。
光希は一徹の態度にも臆することなく言った。
それは、ある意味、青葉よりも勇気のある行動だった。
一徹は、光希の襟首を右手で掴み怒鳴りつけ――――。
光希は右手で襟を掴んだ一徹の右手を押さえると共に、左肘に角度をつけたまま腕全体を振り上げ、一徹の右腕を下からかかるように腕を決めると共に、左拳の甲を一徹の顔面に寸止めしていた。
堤肘。
相手の顔面、胸部へ肘を中心とした二の腕外面を打ち当てたり、相手の攻撃を弾き返したりし、腕をはさみ折る技。
武術にある肘法の一つ。
一徹は右肘に歯痛にも似たズキッとした痛みを感じ、顔面に迫った拳の甲を見ていた。
光希が寸止めしなければ、崩捶が一徹の顔面に入っていたし、肘を折られていた。
一徹は、光希の左拳の向こう。
普段、温厚な様子しか見たことがない光希とは異なる鋭い眼光に、一徹は肝が冷えて後ろによろめいて踏み留まった。
一徹は信じられないという顔をしていた。
青葉は突然の修羅場に驚いていたが、一徹をなだめる。
「違うんだ。佐京は俺が頼んで、お前のことを心配してくれたんだ」
青葉は経緯を話す。
「俺が変わった?」
無自覚なまま、一徹は呟く。
光希も自分の言葉足らずに気付いた。
一徹が変わってしまったのは、一徹自身が原因ではないのだ。
青葉が言うように、巻藁突きを始めたあたりからなのだ。
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