男一徹 力愛不二

13/42
前へ
/42ページ
次へ
 光希は巻藁突きの理由を聞く。  一徹は、柔道では喧嘩に勝てないからと答えた。  柔道の投技や固技は、相手を掴んでからこそ威力を発揮する。掴めなければ威力を発揮できないのだ。  つまり、打撃を当て、そこから投げ技に移行するのが、最も効果的だと話す。  それは、非常に理論的な説明であった。  しかし、その打撃も、当てられなければ意味がない。  一徹のパンチは、当たれば確かに強い。  だが、当たるまでに時間がかかり過ぎると光希は指摘した。  光希は、巻藁についての説明から始める。  巻藁。  空手の鍛錬の中で、最もメジャーなのが巻藁だ。  材料は10cm四方の粘りのある角材。固く粘りのある材質が望ましい。  その一方を、端に行くほど薄くなるように削る。  そして、反対側に短い木材を十字架のようにくくりつける。つまり横木だ。横木は長いメインの角材を挟むように二本取り付ける。  大きな穴を掘り、横木ごと埋めてしっかり固定する。なおこの角材の長さは、地面に埋める部分の長さも併せると、3~5mほど必要。  ビジュアルイメージとしては、地面から上に向かって薄く削られた板が立っており、手を伸ばした位置に縄が巻いてある。  というものになる。  上に行くほど薄くなるように削った角材が地面に立った。今度はその上端に縄などの藁を巻く。  一徹が、空手でいう巻藁突きを行った理由だが、この中学に空手部もボクシング部もない。だから一徹は本を調べての自主練習だった。  最初は上手くいかなかった。  一徹は、巻藁などという、ねばりのある材質の、しなる柱状のものを殴り続ける理由について殴るための練習だと思っていた。  もし、巻藁を殴る目的が『相手の動きに対して正確に追従し、殴る練習』であれば、それはボクシングのミット練習や、パンチングボールの方がよほど優れている。わざわざ動かない柱のようなものを殴る理由とはならない。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加