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その結果、一徹は無駄な力が入り過ぎてしまい、スピードとパワーの両方を犠牲にしてしまった。
師となる者が居ないため、自己流で鍛えたことによる弊害であった。
「なんてことだ。俺は今まで、何をしてきたんだ」
一徹は絶望した。
光希は言う。
打撃練習では、まずは巻藁突き。
巻藁を殴るとき、足は開いて腰を落とし、背骨を中心にして体幹を回転させる。
そして、軸足をしっかり踏み込み、体重をしっかりと乗せて、腰を回しながら拳を突き出す。
その際、肩から先と肘だけで打つのではなく、全身の力を使って打っていることを意識すること。これが出来ていないと、いくら突きを行っても、その力は分散され、意味のないものになってしまう。
と。
それと最後に付け加える。
「素拳で突く場合は、人差し指と中指の第三関節を中心にして突くこと。田麦君は薬指や小指の方まで鍛えている。弊害があるから絶対に止めて」
その言葉を聞いて、一徹はショックを受けた。
自分がやっていたことは、全て間違いだったと知ったからだ。
「佐京。なら俺はどうすれば良い」
一徹は佐京に尋ねる。
「僕が教えることができるのは、ここまで。僕は人を教えるほど功がなっている訳じゃないからね。大丈夫、田麦君は柔道日本一になった凄い人だ。自分の理想とする格闘術を身につけることがきっとできるよ」
光希の言葉は、ある意味冷徹だ。青葉が言葉を挟もうとすると、一徹は制した。
「自分で考えろか……。優しそうに見えて、佐京は厳しい男だな。……分かった。やってやるさ!」
一徹はそう言い残し、去っていった。
一徹が去った後、光希は青葉に話しかける。
光希の表情はどこか浮かないものだった。
それは、一徹の今後について考えているのか、それとも別のことなのか。
「あくまでも僕の仮説になるけど、田麦君が変わってしまったのって。西尾君が言う通り、巻藁突きが原因と思う」
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