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光希は一徹に直に接することで感じたことを口にし、自分の拳を見せながら説明を続ける。
「さっき僕は、田麦君のタコができた手を見たんだけど、彼は薬指と小指も巻藁で鍛えていたんだ。この二本は下半身の神経に影響があると言われているから、鍛え方を誤ると深刻な神経障害が起こるって聞いている。
昔から『老いは脚から始まる』というけど、そういうことが関連しているんだと思うよ。かなり顕著な例になると思うけどね」
光希は人体の不可思議さを改めて思い知らされ、嘆息する。
しかし、その言葉には説得力があった。
その日から、一徹の鍛錬は変わった。
まずは巻藁突き。
突きの威力の2/3は強靭な下半身から生み出される。
つまり巻藁突きとは、拳の強化もあるが、主に下半身の強化を目的とした鍛錬。
上半身よりも下半身の方が重要だという考え方から来ている。
そして、上半身の鍛え上げた筋力の弊害を無くす方法として、考えに考えた。様々な格闘技を自分なりに研究し、独自の理論を導き出す。
それは上半身の力を抜いた状態で、素早く突く方法だった。
鍛えなければ筋肉は徐々痩せていくが、同時にパワーも失われてしまう。再び鍛え直すのではなく、今の筋肉量に対してバストマッチな打撃を一徹は考えた。
しかし、これが中々難しい。
上半身の力を抜きつつ、突きを放つ。
そして、ヒットの瞬間に筋肉を硬直させる。
突きを放つ時に、拳を石のように握りしめていたのでは、スピードが出ない。
脱力から生み出される緩さ。そこから生み出される高速で動き続けるというのは、想像以上に困難を極めた。
全身汗まみれとなり、肩で息をしている状態だ。
額からも大量の汗が流れ落ちてくる。
だが、これを続ければ確実に強くなれると確信できた。
なぜなら、今までよりも速く動けている実感があるからだ。
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