男一徹 力愛不二

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 男はニヤけた顔を近づけて、耳元で囁く様に言う。  声は、とても低く冷たい。  それは、人を威圧する口調だった。  まるで、自分の方が優位であることを示すかのように。  通行人の視線が集まると、男は、  俺の彼女がワガママでスミマセンね。  と、ヘラヘラと笑いながら、わざとらしく謝る。  そして、少女の腕を強引に掴むと、無理やり連れて行こうとする。  しかし、彼女は必死に抵抗する。  周囲の人間は、遠巻きに見ているだけで、誰も助けようとしない。  見て見ぬふりをしているだけだ。  いや、本当にただの痴話喧嘩とも取れる。だからだろう。  皆、関わりたくないと思っているのだ。  それに、この辺りは、不良と呼ばれる人種も少なくない地域。  つまり、揉め事が起きても警察が来るまでに時間がかかる可能性が高い。  そう思う人間が多かった。  しかし、このまま放置すれば、男が少女を連れて行ってしまうのは明白であった。  そうなれば、もっと面倒なことになるかもしれない。  一徹は、そう判断した。  なので、一徹は行動に出ることにした。 「青葉、少し待っていてくれ」  一徹は青葉に伝えると、少女を助けるべく動き出した。  その瞬間、青葉は一徹が何を考え何をしようとしているのか分かり、慌てて止めに入った。 「よせ一徹。本当に、バカップルの痴話喧嘩かも知れないぞ」  青葉は、一徹を止めようとした。 「構わん。女の子が嫌だと言っている。確かめるだけだ」  一徹は、青葉の言葉を聞き入れなかった。  青葉は、仕方がないと一徹の後を追った。  青葉が追いついた時には、既に一徹は男女の前に立っていた。  二人の視線が、一徹に注がれると、一徹は言った。 「止めろ。女の子が嫌がってるだろ!」  突然現れた一徹を、少女と男は呆気に取られた。
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