男一徹 力愛不二

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 男は、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに不機嫌な表情になり舌打ちをした。 「オッサン。誰だテメエ」  男は、一徹に喰らいつく。  その言葉を聞いて、青葉はやっぱりオッサンに見えるんだと改めて思った。 「田麦一徹。中1の時、柔道日本一になった男だ」  訊かれたので、一徹は大真面目に答える。  すると、男は急に大声で笑い始めた。  何が可笑しいのか、腹を抱えて大爆笑だ。  少女は唖然としていた。  男の態度の変化についていけず、混乱している。 「その年で何過去の栄光にすがってんだよ! ダッセーな。そんなもん捨てちまえ。昔のことなんて忘れて、楽しく生きようぜ。なあ?」  男は、少女に同意を求める。  少女は、困惑しながら顔を背ける。 「その娘は、本当にお前の彼女なのか?」  一徹は男に尋ねる。  少女は、一徹を見上げる。首を横に振っ――。  男が少女の顎を無理やり掴む。  男は再び笑う。今度は声を出して笑っていた。  笑い終えると、男は少女に語りかける。  先ほどとは打って変わって優しい口調だった。  まるで別人のような豹変ぶりだった。 「おい。オレが彼氏だって説明してやってくれよ。全部許してやるからさぁ」  少女は、声もなくゆっくりと頷く。  すると、男は勝ち誇った様に一徹を見る。  そして、男に言われた通り、震えた声で、自分が彼の恋人だと口にする。  それを聞いた男は、またもや高らかに笑った。  一徹は、少女の様子を見て確信した。この男は、嘘をついていると。  だが、少女は怯えている。  少女を傷つけたくはないと思った一徹は、拳を握るだけで何もしなかった。  少女は、助けを求めるように一徹を見た。  一徹は、少女の視線を受け止めると、力強くうなずく。 「もういいだろう。その子を離してくれないか」
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