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それは一徹だ。
身長が伸びて筋肉質になっており、顔つきも精強な面構えになっている。
同じ人とは思えない。
その変貌ぶりに、青葉は思わず息を飲む。
「別人じゃないか!」
と、恐ろしいものでも見たかのように、青葉は呟いた。
光希は言う。
「田麦君の変化は、何かを切掛に急激に進行していったんじゃなくて、ゆっくりと時間をかけて進行していったんだろうね。
僕らの場合、毎日顔を合わせるから、劇的に顔が変わったように見えても分からなかったんだね。田麦君の変化をごく当たり前に、普通に受け入れていたってこと。
例えるなら、子猫を引き取って育てていたら、いつの間にか成猫になっていた……。という感じみたいにね」
青葉は、そんなアホな。
と思ったが、つい最近になって違和感を覚えた自分も人のことを言えた立場ではないと思った。
光希は例える。
「劇画タッチの格闘漫画であることなんだけど、主人公を含めた登場人物は設定上中学生か高校生なんだけど、顔や体格はどう見たって40代、どう若くみたって30代後半にしか見えない。
でも、そのまま話は進んで行き、完結まで読んでしまう。
現実世界からすれば、完全に違和感があるのに、ツッコミを入れずに、その世界の常識を受け入れる。これはある意味洗脳なのかも知れない」
青葉は大真面目に言う光希に、まさかという疑いを持つが、確かにそういうものだと思った。
同級生が成長していく姿、変化を青葉達クラスメイトだけでなく、学校全体として違和感なく受け入れていた。
一徹の変化は外見だけでなく、内面にも及んでくる。一徹の場合、心が大人へと成長していく過程で、オッサン化が始まったということらしい。
青葉は納得するしかなかった。
事実は、事実だと。
「ところで西尾君は、この件に関して、どうして僕に相談してきたの?」
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