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「あれから、順平から連絡きたりしてんの?」
「え……」
成海くんの質問に、あたしは戸惑ってしまう。
今日、順平のバイト終わりに会うことになっているなんて、言っても良いのだろうか?
絵里子とのことをちゃんと聞きたい気持ちがありながら、あたしはまた順平が今まで通りに自分の所へ帰ってくるんじゃないかって期待してしまっている。
たぶん、そんなことは絶対にないんだろうけど、どうしても、僅かな希望を抱いてしまっている。
「……来てんだ? なんて?」
あたしの明らかな間の空き方に、成海くんはあたしの方に体ごと向きながら聞いてくる。
「え……」
「順平、なんて言ってきたの?」
「怒ってるよなって……」
「は? なんだよそれ」
眉間に皺を寄せて、呆れた顔をする成海くん。
「で? なんて返したの?」
「……ちゃんと、話したいって言ったら、今日のバイト終わりに会おうって」
「え? 今日? バイト終わりって、何時?」
「……いつも、遅くても22時にはうちに来てくれていたから、たぶん、今日もそのくらいだと……」
あたしがそう答えると、成海くんはますます呆れているように目を細めた。
「は? まどかちゃんの家に来んの?」
「……いや、そうは言われてないけど、今までの流れだとそうかなぁと思って……」
「そうだとして、順平のこと家に上げんの?」
「え……」
それは、あたしも悩んでいた。絵里子とのことがあったとしても、あたしが順平のことを好きなのは変わらないし、順平がまた戻ってきてくれるなら、なんて、悲しいけどそう思ってしまったりしている。
「もし、順平がまどかちゃんのことをまだ想っていたら、嬉しいの?」
「それは! 嬉しいよ!」
「親友のこと抱いたやつだよ、許せるの? 家に上げて、またそうゆうこと出来んの?」
眉を下げて悲しそうに、成海くんがそう言うから、あたしは成海くんから目を逸らして、缶を持つ手を震わせながら答えた。
「今なら、間違いだったって、あたしのとこに戻って来てくれるんなら、たぶん許せると思う。本当はすごく嫌だけど、でも、あたしは、それでも順平の事が好きだから……」
俯いたあたしの目に映る手元がゆらゆらと波を描く。ぼやけて滲んで、瞬きした瞬間にボタボタと涙の雫が手の甲に落下してきた。
そんなあたしの頭を、優しく撫でてくれる成海くん。その手は、どこか躊躇いながらそう動いているようだった。
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