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プロローグ~希望、そして絶望~
生まれ育った王城から、仰々しいほどの人員を引き連れて初めて外出したカイルは、母に手を引かれて殆どわけが分からないまま足を進めた。
王城からほど近い大神殿の中でも、限られた者しか立ち入れない主聖殿。出迎えた神官たちに促されるまま、カイル達はその前方にある聖壇に向かう。
「ほら、カイル。この宝珠に触って、教えた通りに『私に加護を与えてください』とシュレイア様にお願いするの。大丈夫? 一人でできる?」
何段か上がった聖壇上には、歪みを全く感じさせない無色透明な球体が存在しており、幼いカイルにもそれが何度となく教え込まれた《宝珠》であるのが理解できた。
「はい、お母様。できます」
「そうよね? カイルは賢いと、教育係は全員口を揃えて言っているもの。女神様は、きっとあなたに加護を授けてくださるわ」
母が満面の笑みで頷き、「頑張りなさい」と声をかけつつカイルから一歩下がって離れた。周囲の大人達の興味津々な視線など全く意に介せず、カイルは平然と両手を伸ばす。そして自分の胸の高さ辺りにある宝珠の上部に両手を触れつつ、教えられた通りにこの国を守護する女神に祈りを捧げた。
(女神様、僕に加護を与えてください。お願いします)
「え? うわっ!」
次の瞬間、その祈りに応えるかのように、カイルの視界が白に染まった。カイルが咄嗟に両目を閉じると同時に、彼の背後から歓声とどよめきが湧き起こる。
「きゃあ! やったわ、カイル! あなたなら絶対加護持ちになると思っていたわ! これで次期国王はあなたよ! あの気に入らない女達と目障りな子供達を、纏めて叩き出してやれるわ!」
「これは凄い。宝珠がこれほど強い光を放つなど、記憶にないぞ」
「カイル殿下は、とてつもない加護をお持ちのようだ」
「これで次期国王は決まりだな」
「全くだ。この国の将来は明るいぞ」
「カイル殿下、万歳!」
母の満足げな高笑いと、神官や付き従ってきた貴族達の歓喜と追従の言葉が響き渡る中、自分が周囲の期待に応えることができたのが分かったカイルは、嬉しいと思うより先に安堵した。
(良かった、ちゃんと加護を貰えて。でも僕の加護って、一体どんなものなんだろう? 皆の役に立つものだと良いな)
その時カイルは大きな希望を抱いたが、それが数年後には絶望に取って代わってしまうなど、周囲は元より本人も夢にも思っていなかった。
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