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(4)権力争いの渦中
カイルが城内の自分に与えられた棟に戻ると、居間で彼付きの侍女であるメリアが恭しく出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。メリア、何か変わったことはなかったかい?」
「宰相閣下から、お手紙をお預かりしております。それから宰相執務室からの帰り道、エルディラ殿下のご一行に少々絡まれたくらいでしょうか」
「エルディラが? 大丈夫だったのか?」
「ネチネチ嫌味を言われたくらいで、特に問題はありません」
「そうか……」
メリアが封書を差し出しつつ、淡々と報告してくる。それを聞いたカイルは、気位の高い異母妹の振る舞いについて相変わらずだなと思いつつ、封書を開封して内容を確認した。
「明後日、時間があるので面談したいそうだ。こちらは大叔父上とは比較にならないくらい暇だから、いつでもお待ちしていると返事を書く。書き終わったら急いで届けてくれ」
「畏まりました」
早速カイルが、居間から繋がっている書斎に入ると、メリアは彼に付き従っていたリーンに同情する視線を向けた。
「お疲れ様です。今回も、色々と腹立たしい事を耳にされたみたいですね。毎回聞こえていないふりをするのも、なかなか骨が折れるでしょう」
そう話しかけると、リーンは小さく肩を竦めながら応じる。
「そっちは女子供が相手だから、真正面から嫌味をぶつけてくるだけだろうしな。公衆の面前で物理的な攻撃は滅多に受けないだろうから、お前の加護が見破られる可能性は低いだろう。だがいつ何時、実際に攻撃されるか分からないから、注意した方が良いな」
「ええ、気をつけています。本当に最近、益々城内の空気が悪くて困るわ」
リーン同様公にはなっていないものの、《あらゆる物理的攻撃を無効にする加護》の保持者であるメリアは、忌々しげに文句を口にした。それに諦め気味のリーンの台詞が続く。
「いよいよ王子達と、その背後の勢力争いが熾烈になってきたからな。加護持ちではない二人の王子は論外として、王妃腹のカイル殿下は加護持ちだが未だ加護の詳細が不明、同じ王妃腹のニーラム様は加護持ちだが最年少の12歳、他に側室腹の加護持ち王子が二人となれば、荒れるのが必至だが」
「馬鹿馬鹿しい。加護持ちでないと継承候補すら論外って、意味が分からないわよ。第一、加護を持ってるのがそんなに偉いわけ? 寧ろ加護持ちの人間の方が傲慢で、ろくでもない奴ばっかりよ」
「おいおい、カイル様も加護持ちだが?」
メリアの吐き捨てるように口にした台詞に、リーンは思わず苦笑いする。しかしとても笑う心境になれないメリアは、憤然としながら言葉を継いだ。
「カイル様は別に決まっているでしょう!? 自分にどんな能力があるか分からないからと、これまで学問、武芸、芸術、王族に必要なありとあらゆる知識と技術を、人並み以上の努力で全て習得してこられたのよ? それなのに、どんな加護か明確に分かっているだけのあの能無し王子達に、事あるごとに見下されなければいけないなんて! 理不尽すぎるわよ!」
「だから、いい加減落ち着け。お前が喚いたって、状況が変わるわけではない。それにあまり大声で喚いていると、どこぞの手先に盗み聞きされるぞ?」
「……分かっているわよ」
いかにも面白くなさそうに呟いたきり、メリアは無言になった。リーンが(さて、どうしたものか)と内心で困惑していると、書斎に繋がるドアが開いてカイルが姿を見せる。
「リーン。すまないが、至急宰相執務室にこれを届けてくれ。メリア。喉が渇いたから、お茶を淹れてくれないか?」
その指示に、優秀な側近である二人はすかさず応じた。
「承知いたしました」
「少々お待ちください。すぐにご用意します」
(本当に、皆には苦労をかけているな)
一礼して二人が居間から姿を消してから、カイルは一人、溜め息を吐いた。
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