一章 背中の女(1/14)

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 俺はそれを見送ると扉を閉めて、ため息をついた。  十時だって? 行くわけないだろう。配信が始まるところを見逃してしまう。  たかが数分見逃したくらいなんだと言うかもしれないが、その数分にした俺のコメントが読み上げてもらえるかもしれないのだ。  それにあの言い方が気に入らない。  忙しいところ悪いんだけど、迎えに来てくれない? と申し訳なさそうにするならまだしもだ。 「行かないからな」  俺は一人で宣言した。  あんな言い方でも約束をすっぽかしたら俺が悪いのか? 雪菜が俺の家まで来る途中に、“背中の女”に飛び乗られたら? 俺は一生後悔する?  馬鹿馬鹿しい。そんな確率がどれだけあるって言うんだ。  耳の後ろのモヤモヤが気になってしょうがない。  靴箱に置かれた雪菜の財布が目についた。俺は衝動的にそれを掴むと、財布の中身を確認した。千円札が七枚入っている。配信サイトのアカウントに投げ銭用のお金が入っていないことを思い出す。  俺は耳の後ろをトントンと叩きながら、財布を掴んでコンビニに向かった。
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