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ついに幻聴まで聞こえるようになったのかと、慧は眉間を押さえて再び歩き出す。
「慧くん!待って!」
手を握られてようやく、これが夢でも妄想でもないことが分かった。
「比奈……さん……」
「ハァッ、ハァッ……ひどいよっ……慧くん、呼んだのにっ、無視しないでよ!」
目の前には息が上がっている比奈乃がいた。
「ごめん!だって、俺の幻聴かと思って……」
「幻聴じゃないよ。夢でも、妄想でもないからね?」
慧の考えていることなどお見通しらしい。
比奈乃は慧と握ったままの手を見せてニコッと笑った。
しかしそこから一転、険しい表情になる。
「慧くん。私は正直、すごく怒ってます」
「……はい」
「とりあえず一発殴らせてほしいんだけど。いいかな?」
「はい……もちろんです」
それで許されるとも思っていないが、殴るでも蹴るでも罵るでもいい。
何でもいいから比奈乃の気が済むまでやってほしかった。
罰は全て受ける覚悟だ。
ドラマでよく見る強烈な平手打ちか、あるいはゲンコツで腹パンチか。
殴ると言って、ミドルキックなんて可能性もある。
慧は衝撃に備えて目を閉じた。
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