528人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
AM7:45
いつもの出発時間から既に15分も過ぎていた。
比奈乃は鞄にメイクポーチを詰め込んで、バタバタしながら玄関に向かった。
男はそんな彼女の後ろを呑気に追いかけ、玄関でパンプスを履くのを見守る。
「もう!最後まではシないって約束だったのにっ!」
「だってぇ。比奈さんエロすぎなんだもん……比奈さんだって、あそこで止めたら今日仕事集中できなかったでしょ?」
男は自信ありげにニヤリとする。
彼の言うこともあながち間違いではないのが悔しいところだ。
2人は心身共にに相性がいい。
比奈乃は、これまで付き合ってきた男とのそういう行為に不満なんてなかったが、彼と初めて体を重ねてから「体の相性がいいということ」がどういうことなのか体感したのだった。
以来、彼にすっかり溺れてしまっている。
もちろん、お互い好きなのは体だけではないことは2人の名誉のために言っておこう。
「もう!調子いいんだからっ!」
お仕置きのつもりで彼の鼻を軽く摘んでから、扉を開けようと鍵を回すと、彼が比奈乃を呼び止めた。
「待って比奈さん!忘れもの!」
「え!?」
振り返ると、目の前には男のベビーフェイス。
そしてその瞬間、2人の唇が重なった。
——チュッ
「いってらっしゃい。今日送別会だよね?駅まで迎え行くから連絡してね!」
「……ありがと。行ってきます!」
成田慧(25)の1日は、こうして出勤する彼女を見送るところから始まる。
そして同時に、ここから成田慧のもう1つの1日も始まるのだった——。
最初のコメントを投稿しよう!