1.成田慧という男 

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AM7:45 いつもの出発時間から既に15分も過ぎていた。 比奈乃は鞄にメイクポーチを詰め込んで、バタバタしながら玄関に向かった。 男はそんな彼女の後ろを呑気に追いかけ、玄関でパンプスを履くのを見守る。   「もう!最後まではシないって約束だったのにっ!」 「だってぇ。比奈さんエロすぎなんだもん……比奈さんだって、あそこで止めたら今日仕事集中できなかったでしょ?」 男は自信ありげにニヤリとする。 彼の言うこともあながち間違いではないのが悔しいところだ。 2人はに相性がいい。 比奈乃は、これまで付き合ってきた男とのに不満なんてなかったが、彼と初めて体を重ねてから「体の相性がいいということ」がどういうことなのか体感したのだった。 以来、彼にすっかり溺れてしまっている。 もちろん、お互い好きなのは体だけではないことは2人の名誉のために言っておこう。 「もう!調子いいんだからっ!」 お仕置きのつもりで彼の鼻を軽く摘んでから、扉を開けようと鍵を回すと、彼が比奈乃を呼び止めた。 「待って比奈さん!忘れもの!」 「え!?」 振り返ると、目の前には男のベビーフェイス。 そしてその瞬間、2人の唇が重なった。 ——チュッ 「いってらっしゃい。今日送別会だよね?駅まで迎え行くから連絡してね!」 「……ありがと。行ってきます!」   成田(なりた)(けい)(25)の1日は、こうして出勤する彼女を見送るところから始まる。 そして同時に、ここから成田慧のもう1つの1日も始まるのだった——。
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