酒は飲んでも飲まれるな

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 部署の飲み会の翌日、やたら同僚たちの視線を感じる昼休み。 「沢くん、沢くん」 「あ、原田さん。なに?」 「ゆうべ・・・大丈夫だった?」 「ゆうべ?」 「結構噂になってるけど」 「え?噂?!噂ってなに?」 「えっと・・・」 同じ部署の原田さんは可愛い。そして竹を割ったような性格で話しやすいから、男友達みたいになんでも相談できる相手だ。その彼女が言い淀むとは、俺、ゆうべ飲み会で何かした?  酒があまり強くないので、後半の記憶はあまりはっきりしていないが、漏らしたとかそういうことはないはず。  「営業の三嶋さんにまとわりつかれてたでしょ?もしかして逆お持ち帰りされちゃったかと思って・・・」 三嶋れみ。彼女は社内でも有名な「肉食女子」とかで、何人も彼女の毒牙にかかった男がいるとかいないとか。え、俺狙われてたの?確かに隣に座ってたけど。 「おおおお持ち帰り?!まさか!ちゃんと家に帰ったよ?」 「ほんと?みんなが店出る時、三嶋さんと残ってたから心配してたの」 「えっ?お、覚えてない」 「だよね、かなり酔ってたし」 「でも、ちゃんと朝家で目・・・・・・あっ」 「あ?」 「い、いや、なんでも」 「大丈夫?」 「うん、とにかく、三嶋さんとはなにもないよ、大丈夫!」 「そっかあ」 思い出した、そうだ、また俺は飯島に助けてもらったんだ。同僚で親友の飯島(いいじま)(しゅん)。こいつはいつでも絶妙なタイミングで俺を助けてくれる。 「おい、起きろ」 「ふあ?」 「家だぞ、しっかりしろ」 「あれえ、飯島だー、三嶋さんは?」 「お前な、酒の席はもう少し気をつけろよ。危うく既成事実作られるとこだったんだぞ」 「既成事実?!」 「ホテル連れ込まれてたらアウトだったな」 「ホテル・・・ホテル?!あわわわ、うそだろ、マジで?!」 「思い出したか?」 「た、確か、強い酒勧められて飲んで・・・」 「弱いんだからがばがば飲むなっていつも言ってんのに」 「だってなんか断ったら雰囲気悪くするかなって・・・まさかそんな」 「そのまさかなの。三嶋れみが肉食なの、聞いたことあるだろ?」 「あ・・・ある・・・」  頭はガンガンするし、服は酒臭いし最悪。でも、飯島がいてくれて本当に良かった、さすが親友。キッチンから水を入れたコップを持ってきてくれた飯島はこう言った。 「じゃあ俺帰るわ」 「あっ、あの、飯島、えっと、ありがと」 「おう、明日な」 「うん、明日」 飯島が玄関から出て行って、鍵を閉めたあとの記憶はない。気づいたら朝だった。リビングのソファで目が覚めて、慌てて身支度して出社した。そして今の今まで、飯島が家まで送り届けてくれたことを忘れてた!  やばい、俺、飯島にお礼言ってない!っていうか、なんで飯島、俺が三嶋さんに食われそうになったのわかったんだろ?  に、しても。助けてくれなかったら今頃やばかっただろうな・・・そんなことになっていたら、きっと飯島にも打ち明けられないぞ。だって酔い潰れて女の子にお持ち帰りされるとか、軽蔑されたくないし。  酒は飲んでも飲まれるなって、本当だ。  
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