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奇妙な犯行
「うわっ! やられた……」
予感は、あった。
前回から、9ヶ月。そろそろ、この日が来るような、そんな気がしていた。だけど、来月末は僕の誕生日なんだぞ。あんまりじゃないか。
ドアを開けると、部屋は真っ暗。慌てて電気を付ければ、床の上、派手にぶちまけられた衣類の数々。棚の側には、写真集や雑誌が乱雑に散らばっている。それから――。
「ランクル200は、やめろって言ったのに」
ガラスケースに飾られたミニカーのコレクション。男の子なら誰しも子どもの頃に遊んだ有名玩具メーカーの1/64スケールに、細部まで楽しむ大人のために売り出された精巧な1/43スケール。カプセルトイマシンでGETしたチープなものもあれば、隔週販売の雑誌に付いてくるパーツを組み立てて作り上げたものもある。現在の総数、216台。整然と並んだ車列の中央に、ぽっかりと空いた不自然なスペースが目を引いた。……やっぱりだ。2007年式ランドクルーザー200の黒い車体(1/43スケール)だけが忽然と姿を消している。
「はあぁ……」
脱力して、ベッドに腰かける。小さな軋みが、独りぼっちの空間でやけに耳に付く。
鞄の底を探り、緑のラクダが描かれた白い煙草の箱を掴んだ。パッケージの封を切って、1本咥える。ベッドサイドテーブルの引き出しに左手を突っ込んで、指先に触れたオイルライターを握り、火を点す。9ヶ月ぶりの味わい――深く吸った煙をゆっくり吐き出し、天井を見上げる。
「っと、換気しなきゃ」
少しでも臭いが残っていたら、顔をしかめるに違いない。のろのろと腰を上げ、レンジフードの換気スイッチを押し、その下でフィルターの手前まで吸い切った。シンクに作った水たまりに落とすと、ジュッと断末魔を叫び、細い紫煙を吐いて果てた。
「さぁて」
外したネクタイと上着をベッドに放り投げ、まずは雑誌類を棚に戻す。それから、床の上の衣類を拾う。普段着のTシャツに靴下、それから――。
「今回は、青の縦縞かー」
床に点在するボクサーパンツ。愛用している1枚が見当たらない。
毎度の“お決まり”。部屋から消えたのは、ミニカー1台とパンツ1枚。持ち主に無断で持ち出されたってことは――これは立派な「窃盗」だ。返却されるまで、だけど。
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