25人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
飲み会というのは危険な催しだ。酒の力で普段出来ないことも出来ちゃったりなんかする。
「飯島くん、このあと二人で飲み直さない?」
先輩からの誘いには、できるだけ丁寧に断るべし。
「ああ・・・・・・ちょっと今日は・・・」
「この間もそう言ってなかった?」
「はは・・・・・・」
「一件だけ、ね?」
笑顔は絶やさず、断り文句を必死に探す。そして同時進行で端の席で行われている出来事にも俺は目を光らせていた。
「すみません、今日はやっぱり帰ります」
「付き合ってる人いるの?」
この人話聞いてないな。
「・・・付き合ってる人はいませんけど」
「じゃあよくない?」
じゃあとはなんだ、じゃあとは。
「すみません、ほんとに俺・・・・・・」
同時進行案件に動きがあり、俺は先輩を振り切って立ち上がった。そして、飯島くん、と呼ぶ先輩の声を無視して大股でテーブルの端の席まで歩いてゆく。
「三嶋さん、どうしたの」
同僚の中でも有名な肉食女子、三嶋れみ。彼女が親友の沢裕介を狙っていることは周知の事実なのだが、どうしたことか沢本人だけが気づいていない。鈍いのだ。おそらく今夜も強い酒でも勧めて、うまいこと既成事実でも作るつもりだろう。沢はテーブルに突っ伏してすやすやと寝息を立てている。
「あ、飯島くん。沢くん酔っちゃったみたい」
「こいつ酒弱いからね」
「話盛り上がって、これから二人で飲み直そうって話してたんだけど、寝ちゃったの」
「そうなんだ。俺、連れて帰るよ」
「大丈夫、酔いが醒めたら、あたし同じ方向だから一緒に帰るよ」
「多分そう簡単には起きないよ。女性じゃ酔ったこいつ支えるの重いと思うし」
「そう?でもまだ話したいことあるから、起きるの待ってようと思うんだよね」
「もうそろそろお開きになるし、俺がこいつ引き受けるよ」
「・・・あー・・・でも、ね。飯島くん、その・・・わかるよね?あたし、沢くんと付き合いたいな〜って思ってて、だから・・・」
「・・・・・・」
「ね?大丈夫だから」
「・・・・・・三嶋さん」
「うん?」
「やっぱり俺が連れて帰る」
「・・・飯島くん、あたしの話聞いてた?」
「・・・そんな大事な話なら、こいつが酔ってない時にしろよ。前後不覚にさせるとか卑怯だろ」
俺が口調を変えた途端、三嶋さんの様子も変わった。ひきつった顔で俺を見ている彼女の背後で、気づけば他のメンバーたちはぞろぞろと店を出ていくところだった。
俺は小さくため息を吐いて、酔いつぶれた沢を揺らした。
「おい沢、帰るぞ」
「うぅ・・・ん・・・」
酒は飲んでも飲まれるな。
最初のコメントを投稿しよう!