雨に暴かれる様すらも滑稽である。

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「なあ行光さあ、高校卒業してから何してたん? 地元出てこっち来てから誰とも連絡取ってなかったろ?」 日野の問いに夕はすぐに返せなかった。連絡が取れなかった理由は山ほどあるのだ。それこそ、兄弟と人間の出来の悪さを比べて指摘され続け、親に勘当され、文字通り物理的に家を追い出された所から語らなければならなくなる。だがそんな所から懇切丁寧に語るには、夕は訥弁(とつべん)だった。 きっと夕の話す速度に合わせていたら、自分の話をするだけで3日はかかってしまう。 そして話し下手が故に、この問いに上手く返す言葉すらも思い浮かばなかった。 こういったところが、夕が親から勘当されてしまう1つの理由であった。 「? 行光?」 「あ、あああの、……あのね、えっとね……」 「あ、いやいいんだ。話したくなければ無理に話さないで。人の人生話をネタだと思うのは失礼だったよな、ごめんな」 眉を寄せて笑う日野。 駄目なのだ、夕はこの笑顔にとても、昔から、非常に、弱かった。 掌をギュッと握って、汗ばんでいるのを感じながらもやっぱり夕は彼の為にどうにかしてあげたいと、思ってしまうのだ。いつもなら、「話すの苦手だから」の一言で相手との会話を断ち切るのに。 「……お、おれ、……話すの、じょうずじゃないし、……そのおれ、しゃべるのも、はやくないから……多分、つまって、聞きづらいし、……えっと……」 「ああなんだそんなこと? 慣れてるでしょ、そんなの」 「あ、……う……」 コンプレックスであるこの、言葉や口の拙さを夕なりに必死で伝えた。吃ってしまうのが恥ずかしくて、詰まってしまう事に憤りと焦りを感じてしまうけれど、やっぱり今でも憧れる彼と、もっと会話したくて必死に伝えた。そうすると彼は、「なんだそんなこと」と一蹴するのだ。夕の長年のコンプレックスを。 やっぱり凄いなあ、日野は。 俺の心を救ってくれるのは、いつも日野なんだ。 気づけば夕は、ふふ、と微笑んでいた。 「なに? なんか俺変なこと言った?」 「あ、いやちがう……その……」 「ん、なあに」 夕が小声でも聞こえるように耳を寄せて、優しく微笑んで安心させてくれる日野は、やっぱり格好いい。 「……あの、……お、俺が……高校の時さ、……」 「うん」 「……いちばん、はじめに、……日野に会った時のね、……」 「うんうん」 「……あの、保健室で、俺がたおれてたときのはなしね……それでね……」 「ああ、あったな」 しっかり聞いて、根気強く相槌を打ってくれて、笑って目を見て話してくれる日野に嬉しくなった夕も、身を乗り出して「あのねあのね、」とにこにこで日野に言葉を続けていた。 「貧血、ひどくて、……あ、それはもうしってる、よね、ごめん、えっとちがくて……」 「うん、大丈夫。それで?」 「あ、あの……ひの、今と同じだなっておもって、……」 「今と同じ?」 詰まりそうなのを促して、優しくあたためて夕が怯えないように、逃げないように、話す事が嫌いにならないように、日野はひたすら待って続きを促して最後までしっかり聞いてくれる。 夕と日野が出会ったのは高校1年の冬だった。 夕は貧血持ちで朝は低血圧が酷く、時にはしゃがみ込まないといけないぐらい目眩や吐き気、視界の白みが激しくなる日があった。その日も夕は、朝起きて登校していたら気持ち悪くなって教室に入る前に保健室に寄ったのだ。しかし、あと少しでベッドに横になれる、という安堵感で気が抜け保健室の入り口でしゃがみ込んだまま倒れてしまっていた。
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