6人が本棚に入れています
本棚に追加
1
息が上がる。車が雪道につけた幅三十センチ程の轍をつんのめりながら、必死に走る。降りしきる雪が頬に当たって冷たい。
もお。雪。雪。雪。こんなの、歩いてるのと変わらん速度や。
時折、雪に足をとられる。思ってもみないところで横滑りすると、ぶわっと汗をかく。寒いどころか、だんだん暑くなってくる。傘は閉じてしまいたいところだけど、頭から雪まみれになって風邪を引くのがオチだ。
まっ白な平原になった田んぼの向こうから甲高い警笛が聞こえて、かすかに電車が見えた。
うわあ。まだ来んといて!
「喜々! 早く! 乗り遅れるよ!」
真緒ちゃんが、向こうのホームから叫んでいる。
そんなの、私が一番わかっている。
電車、止めといてえ!
木造の駅舎の引き戸をガタっと開けて、無人の改札を抜ける。白いカーテンのような雪闇の中から、電車が姿を現した。でもまだ間に合うはず。真緒ちゃんがいるホームに駆け上がると、遮断機のバーが私の背中越しに下りた。セーフ。でも一瞬でも遅れていたらホームに上がれなかったと思うと、ぞわっとして汗も引いた。そこに電車が滑り込んできた。圧雪されてギュギュッときしむ音がする。私は乗客の列の一番最後につく。
最初のコメントを投稿しよう!