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「やば。遅刻する」
雪を受けていた手をつかまれて、ころびそうになりながら引っ張られていく。校門が見えてきた。ほっとして息を吐くと、手は放された。
「あー。小野塚を置いてくわけにいかんで」
熱くなったほほに雪が舞い降りて、しゅんしゅんと解けていくのがわかる。心にもじゅわんじゅわんと解けてしみていく。雪ってこんなに柔らかで儚いものだったかな。
子どもの頃は、雪の日が待ち遠しかった。雪だるまを作ろうか。そりで遊べるかな。それから降ってくる雪を見上げると、空に舞い上がりそうになる感覚がたまらなく好きだった。
今ではすっかり邪魔者扱いしているけれど、私は雪が大好きだった。
そんなわくわくした気持ちを思い出した。
葛西くんは?
子どもの頃は何して遊んでいたんだろ。いつから雪が好きだったのかな。結晶の写真、もっと見せてほしい。
校門を抜けると、玄関までの前庭には融雪のために水が流れていた。
「走れ!」
葛西くんは、水を跳ね上げて駆けていく。
「え? ま、待って!」
私もバシャバシャと水音を立てながら、大きな黒い背中を追いかける。必死に追いかけながら、心の中で願っていた。
明日の朝も絶対、雪が降りますように。
完
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