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 いつもは途中から乗る人がほとんどいないから楽に立っていられるのに、今日は駅に止まる度に人が乗ってきて、中へ押される。 「ねえ、何かいつもより人が多くない?」 「ああ、雪が積もったから、チャリ通の人も電車に乗るからやろ」  そうかと納得すると、小さな駅に電車が止まる。いつもはおしゃべりに夢中で気にも留めていない駅だ。ホームで待っていた男子が黒いベンチコートの雪を払い、顔を上げた。  あれ? 葛西くんだ。  向こうも気付いたのか、彼の目がちょっとだけ大きくなる。近くのドアが開いて乗り込んできた。おはようと声をかけようか迷う。 「葛西やん。この辺に住んでるんか?」  真緒ちゃんの元気な声に、挨拶のタイミングを逃してしまった。 「ああ。稲荷山の方やけどな」  葛西くんはみんなより頭一つ以上高いので、つり革の上のバーをつかむ。 「え! 結構、山の奥の方やよね」 「人を仙人か猿やと思ってるやろ」 「いや熊やろ。そんな黒くてでかいのは」 「ふん。熊なら今頃冬眠してるし」  すると向こうの席の方から「(わたる)!」と呼ぶ声がして、葛西くんが移動していった。 「無駄にでかいよね」 「うん。ほんとに」
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