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手の平を上に向けると、毛糸の編地にふわりと雪が立つようにのる。
「え? うわ!」
すぐには解けないものなんだと驚く。
「お、そのまま、じっとしてて」
息を潜めた。私の顔の十センチ先で彼はスマホを構える。真剣な眼差しで。角度を変えながら何回も撮っている。私はそわそわと緊張した。モデルでもないのに、と恥ずかしくなる。
「ああ、上手く撮れた」
「え! そうなん?」
「いつもは、片手で受けて、もう片方で撮ってるで、なかなか上手くいかんのや」
画面を見せてくれる。そこには雪の結晶が映っていた。自分の手の平に存在していたことが信じられなかった。
もう一度手の平に受けて目を凝らす。
「雪の結晶って、こんなに大きいの!」
結晶は八ミリ程の大きさだ。まるでダイヤモンドの周りに六枚の繊細な花びらをつけたみたいだ。空にはこんな細かい仕事をする職人さんがいるの? その仕事ぶりをひけらかすわけでもなく、はかなくスッと消える。
「まるで、王女さまのティアラみたいやね」
葛西くんは「ん?」と、首をかしげる。
「逆やろ。例えるなら、雪の結晶みたいなティアラや」
「人間の方が真似して作ってるってこと?」
「そうや。結晶は誰が作ったんでもないのに、こんなにきれいなんや。それも同じのはないらしいぞ」
ああ。葛西くんは、雪の結晶に魅せられているんだ。
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