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元日の夕暮れ時。寒空に雪がチラチラと舞いはじめた頃には、両家への新年の挨拶も終えて、後は仮住まいであるホテルへ帰るだけとなっていた。
ちなみに、恋の父は既にギプスもとれ退院している。
恋の実家を出てそのままホテルへと帰るものだと思っていたのだが。
「ちょっと寄り道して行くぞ。寄りたい所があるんだ」
ーー寄りたい所ってどこだろう?
運転席でハンドルを握る秀からの、突然の言葉に、恋はキョトン顔でパチパチと瞬きをした後、頭に疑問符を浮かべつつ答えた。
「……うん」
寄り道だというのですぐ近くだろうと思っていたのだが、一時間ほど車に揺られて到着したのは、東京と神奈川との境界線に位置する老舗の遊園地だった。
まさか遊園地とは思わず、ポカンとした恋が車窓から望めるイルミネーションをぼんやりと眺めていると、いつしか降車した秀が助手席のドアを開けて、恋に降車を促してくる。
「一度でいいから遊園地でデートしてみたいって、前に酔って言ってただろう」
悪戯を成功させた少年のような嬉しそうな声音で、そんなことを言ってきた秀の声に弾かれるように顔を上げると、声同様に得意げな表情で、漆黒の双眸を眩しそうに眇めている秀が待ち受けていた。
不覚にも見蕩れてしまった恋は、胸までトクンときめかせてしまう。
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