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つまりは、普段家族の前では心を偽って男として生きている。けれど、中身は女性そのもの。
それを恋なりに解釈して、ゲイのようなものだと思い込んでいた。
いや、実際そうなのだろう。
そんな不毛な相手に対して、ときめいてしまうなんて、こんなにも虚しいことはない。
恋にとって、いくらカレンが稀有で特別な存在であったとしても、抱いてはいけない感情だ。
これまで、恋なんて名前の癖に、これといって取り立てるほどの恋愛経験もない。なんなら恋愛ごとから目を背けてきた。そんな恋にも、それくらいの判断はできる。
ーーこれはかなり酔ってるな。しっかりしなきゃ。
内心動揺しつつも、少しでも気持ちを落ち着けようと、恋は深呼吸を繰り返す。
そこへ、依然として心配そうに柳眉を八の字に下げたカレンから、再び柔らかな声音が降り注いだ。
「恋ちゃん。もしかして、胸が苦しいの? 安心して。あたし、医者だから診てあげる」
だが思いもよらない申し出だったために、恋は一瞬ポカンとしてしまう。
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