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酔っていながらもそこはやはり女。盛大な羞恥に苛まれ、声に出すよりも先に行動に移していた。
だが酔っているためにその動きは非常に緩慢だ。それでも何とか今にもはだけてしまいそうだったシャツのあわいを腕で覆い隠すのが関の山だった。
瞬間、カレンに胸を見られずに済んだとホッと安堵している間もなく、カレンから再度声が降ってきた。
「恋ちゃん。やっと目が覚めたようね。よかったぁ。あっ、そうだ。お水飲んでみる?」
それは、やけに気遣わしげで優しい声音だった。
どうやらカレンは先程同様、思い違いをしているらしい。そうは思いながらも、そんなものはどうでもよくなってくる。
頭の中では、状況を把握しようと思考を繰り広げてはいるが、正真正銘の酔っ払いなのだから無理もない。なので突拍子もないことを思考してしまうのだった。
ーーなんだかお母さんみたい。
まだ覚束ない意識の中で恋はそんな呑気なことを思っていた。
同時に、懐かしい母の記憶までもが呼び起こされる。
だからだろうか。恋は無意識に両手を広げて。
「お水はいらない。目一杯ギュッてして。お願い」
幼い頃、よくそう言って母に甘えていたように、カレンに強請ってしまっていた。
だがまだ完全には覚醒していなかったので、恋にはその自覚など全くない。
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