高輪ウエイトレス

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 東京の高輪にある、この四つ星ホテル。セキュリティーは万全で、館内の至るところに監視カメラが設置されている。その画像情報は無線ルーターを介して、警備ルームに集約されているわけだ。そこでオレはピンときた。暗号コードさえ入手できれば、無線を傍受して館内の動きが手にとるように分かるはずだ、と。  ここを選んだのは、ニューヨーク在住の、とある資産家が、観光目的で東京に来るという情報をWebから入手したことによる。帰国は明日1500成田発の便らしく、今日をその決行日にした。  スマホのアプリを起動してしばらくすると、右耳のワイヤレスイヤホンから女の声が聞こえてきた。腕時計の針は午後九時を回ったばかり。 『ルームサービス準備よし』 『了解。突入せよ』  オレはピンマイクに向かって指示を出した。彼女はこのホテルの従業員で、コードネームはケロちゃんである。暗号コードを教えてくれたのは、もちろん彼女だ。  ややあって、 『任務完了』と落ちついた声が耳に届く。  手はずどおりに事が進んでいるようだ。サービスワゴンをスイート・ルームに運び終えたケロちゃんの姿を、監視カメラが捉えている。パソコン画面を眺めながら再び指示を出す。 『ピンマイクとイヤホンは速やかに処分、いいな』 『撤収後、処理します』  これでよし。計画の前半までは順調そのもの。おつまみに仕込んだ睡眠薬は即効性のやつだから、三十分もすれば効果が現れるし、おまけに証拠も残らない。あとはマダムにお任せだな。  今いるカフェテラスから夜空を仰ぎ見て、ホテルのはるか上にあるスイートルームに祈りを捧げる。いざとなれば腕ずくでマダムを救い出し、地下駐車場から逃亡することも視野に入れていた。 『カシロー、こちらジャック。感度どうか』 『こちらカシロー、感度良好。そのまま待機。車のエンジンはかけたままでよろしく』 『OK。健闘を祈る』
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