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小島に声を掛けられた飲み会は、言っていた通り結構な人数が集まり、居酒屋の大広間で行われ、やはり久喜はいなかった。
『女でも出来たんじゃん』
小島の言葉を思い返して、ギュッと胸が痛む。今頃デートしてるのか? 切なくなった。
「な、つ、め、くんっ!」
俺に告白をして来た彼女が、ビール瓶とコップを両手に持って俺の隣りに座った。
「あ… 」
何も言えずに、その彼女をただ見た。
「私、夏目くんの事、諦めないんだー。ね、飲んでる?」
そう言いながら、ビールが半分位になっている俺のコップに注ごうとして、手を止めた。
「ほら、飲んじゃって!」
俺のコップを持ち、残りのビールを飲み干せと言う。飲むのは構わないが、君が此処にいるのは困った。
「あの、悪いけど… 」
俺の気が変わる事は無いから、そう言おうとした時に突然声が上がる。
「あっれー!?久喜っ!お前、今日来ない筈じゃなかったのかよ!」
ここに座れよっ!待ってたぜ!やっぱお前がいないとなっ!
やんやと声が続いた。
痛い、胸が…
久喜から目が逸らせないで、ずっと見てしまっていたから、俺の方を見た時に目が合いドキッとする。久喜の視線がスッと隣りの彼女に流れたのが分かる。不味い、勘違いされる、一瞬そう思ったが、直ぐに思い直した。
別に、勘違いされても何の不都合もない。そう思って何だかおかしくなって軽く笑った。
「どうしたの?何か変なトコ、あった?」
自分が笑われたのかと思った彼女が不安そうに訊いた。
「いや、違う。ごめん、この後予定があるんだ俺、帰るから」
「え〜帰っちゃうのぉ〜、つまんな〜い!じゃ、今度、一緒にご飯行こうねっ!」
俺の腕にギュッと両手で絡みつき、ニコッと笑った。久喜がこちらを見ているのが視界の端に入る。
久喜が丁度誰かに引っ張られ、席を移動した隙に、俺は広間を出た。
ああ、何だってこんな事になったんだ。
久喜と一緒にいた時は、もの凄く愉快だった、楽しかった。腹がよじれるほど沢山笑った。
苦しくて切なくて、出来る事なら、あの宅飲みをする前に戻りたい。そうしたら、宅飲みなんかに行かない、絶対に行かない、大きな川沿いの遊歩道にあるベンチに座り込み、両手で頭を抱えた。
会いたい、久喜に会いたい… 。
涙を堪えて、喉の奥がツンと痛む。
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