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俺も好きだよ
唇が吸い寄せられるとは、こういう事を言うんだな、と身をもって知る。
自然と俺の唇が、久喜の唇に引き寄せられる様に移動した。
腕を掴んでいた久喜の手が、そのまま上に流れて俺の後頭部を、もう片方の手で頬を優しく包んで熱いキスをする。俺は動けずに、ただそのまま固まっていた。
一度唇を離すと、俺の目をジッと見つめて
「俺のこと、好き? 」
不安そうな顔でそう訊いた久喜。
涙が込み上げてきて、ごくりと唾を呑んで小さく頷いた。
「好き? 」
もう一度訊く。
「す、好き、だ… 」
「キスしていい?」
いや、もう既にしたじゃないか、何で改めて承諾を得ようとするんだ、そうツッコミたかったが、堪らずに俺の方から久喜の口を塞いだ。
「これから飲み会に戻って、皆んなに言おうぜ」
「何をっ!?」
まさか、俺達が付き合う事じゃないよな? 嫌な汗が脇下を流れる。
嬉しそうに俺の手を握り、ニコニコ顔の久喜が「行こう」とベンチから立ち上がらせる。
「いやいや、待って、何を言うんだ!? 」
「ん? 俺達が付き合ってるって」
相変わらずの屈託のない笑顔でそう言って、俺を引き寄せると強く抱き締めた。
「言っとかないと、夏目に変な虫、付いちゃうじゃん」
「だ、大丈夫だ、そんなの付かない。それを言うなら久喜の方が危ないだろう」
「俺は夏目、一筋だから絶対に大丈夫」
夢、なのか?
俺は今、夢を見ているのではないかと思った。
いや、まさか俺を揶揄っている? さっきの、俺を好きだと、俺を好きかと訊かれた時の久喜の顔を思い出して、揶揄われてはいない、そう思えたけど、やっぱり信じられなくて抱き締められた身体を、久喜から離した。
「どうした?」
「あ、の… 揶揄ってない… よな?」
今、こんな事を訊いて、もしそうだとしたら更に格好のネタになってしまうだろう、そう思ったが訊かずにはいられなかった。
「え?… お前も、俺の事、揶揄って答えてないよな?」
不安気に久喜に訊かれて、妙に安堵感を得る。
『俺達、付き合っちゃう?』
欺く為のはかりごとだったのに、こんな展開になって、まだ頭や気持ちが追いつかない。久喜も俺を想っていたのか?確かめたい。
「久喜、俺が好きだったのか?」
俺の問いに、湯が沸かせる程の赤い顔になって、汗だくになり、
「す、好きじゃなきゃ、つ、付き合おうとか、言わねーだろ!」
こんな可愛い久喜は初めて見て、俺は死ぬほどに幸せを感じた。
何も言わずに二人で抱き締め合う。
久喜、俺も好きだよ。
いや、大好きだ。
心の中で呟いた。
聞こえていない筈なのに、抱き締める久喜の腕の力が強くなり、俺は幸せこの上ない。
本当に大好きだ。いや……
「久喜、愛してる」
久喜の耳元に唇を近づけ囁いた。
── fin ──
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