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すれ違う気持ちと振る舞い
大学に入学して、一番最初に親しくなったのが久喜だった。
「昼飯食った?」
講義で何度か見かけたが、名前も知らないのに話しかけられ「いや、まだです」と答えたのを覚えている。
「じゃ、一緒に学食行こうぜ!行った事ないから、システム分かんなくて緊張するじゃん」
ニッコニコの顔で笑って、呆気に取られて立ったままの俺に「早く!」と手招きをして急かした。
随分と人懐っこい人だな、そう思った。
久喜とは、それからの付き合い。
良く言えば明朗快活、一歩間違えば傍若無人な久喜のお陰で、俺にも友人がたくさん出来た。
成人を過ぎて一緒に飲む様にはなったが、初めて誰かの家で飲んで、あの出来事。うっすらと噂は聞いていたが、久喜だからな、と思ったし自分がされるとは思っていなかった。深く考える必要なんてないのは分かっている。
それでも、久喜の事ばかりを考えてしまう。
✴︎✴︎✴︎
「夏目くん、私と付き合わない?」
授業が終わった後の講義室で、何度か見掛けた子がそんな事を言ってきた。話しをした事がないし、どんな人なのかも分からない。何と断れば良いのか返事に困っていると
「好きなの。最初はお友達でいいから」
と微笑む。でも、最終的には友達としてではなく見てね、という事だよな。
ふと久喜の顔が浮かび、この子と付き合ったらモヤモヤしたこの気持ちも無くなるだろうかと思って、付き合いを承諾しようかとも思ったが、それではこの人に失礼だ、やはり丁重にお断りをした。
それがどんな経緯でそうなったのか不明だが、俺に彼女が出来た事になっていた。
「夏目、彼女出来たって?」
昼間、学食で食事をしていると、久喜がトレイを持って俺の前に座った。
出来ていない、彼女には断った、そう言おうと思ったのに
「流石、余裕だね、真面目くんは」
久喜の言葉にカチンと来て、顔を上げて睨んだ。
「別に、俺は真面目なんかじゃない」
そう反論するのがせいぜいで、唇を噛んだ。
「自分で自覚ないの?お前は真面目だよ」
何故、そんなにも俺をそう決めつけるんだ、真面目な俺なんか久喜にはつまらないだろう。そうだ、真面目な俺では久喜にはつまらない筈、そう思って、真面目に思われたくない自分に気付いた。
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