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「何でそんなに俺を真面目な人間にしたいんだ」
「したいって、事実、真面目じゃん」
「だからあの夜、揶揄ったのか?」
「あの夜?ああ、あの夜ね」
ニヤニヤと笑う久喜の顔を更に思い切り睨みつけた。
「やっぱ、不愉快だったんじゃん、そう言えよ、謝るからさ」
でも気持ち良かっただろう?目がそう言っていた。
「大丈夫、彼女には言わないから」
当たり前だろう、てか彼女じゃない!
「皆んなとあんな事をシてるんだろう?別に何でもない。そうだな気持ちは良かったな」
強がって言った。あんな事くらい何でもない、何も気にしていない、そう言いたかったし思わせたかった俺は、アレは気持ち良かったと、そう言った。… 確かに気持ち良かったし。
「皆んなと?え?何それ。酷くねぇ?それじゃあ、サカリのついた猿みてぇじゃん」
違うのか? そうだろう。
誰でもいいと言ったじゃないか。心の中で必死に反論するが言葉には出さない。
「皆んなとなんか、シてねーし」
学食のカレーをスプーンですくうと、綺麗に口に運んだ。いつも思っていたが、久喜は食べ方が綺麗だ。
って、何で今そんな事を思うんだと、顔が歪む。
「誰でもいいと言ってただろう」
「誰でもいいなんて言ってねーよ、失礼極まりねぇな」
言っただろう?と会話を思い返し、… 間違っていないと思う。
「男でも女でも、どっちでもいいとは言ったけどな、誰でもいいなんて言ってねぇよ!」
久喜の、怒鳴り声に近い声に少しビクリとなりながら、そう言えばそう言っていたかも、と記憶を辿る。
急いでカレーを掻き込んで完食すると、ジロリと俺を睨んで、
「俺は、俺の好みのヤツしか相手にしねーから」
不愉快そうに小さな声で呟くと、乱暴に席を立って食堂を去る久喜。
怒らせてしまった。
嫌われてしまったかも知れない。
でも、これでいい、久喜は男だ。
想いを寄せる事が大体の間違いだ、食堂から出て行く久喜の背中を、痛む胸を堪えて見つめた。
え?
久喜の言葉を思い返す。
『俺の好みのヤツ』
どういう意味だ。
少し胸がトクン、とした。
それから久喜は、俺の傍に近寄らなくなった。講義室に俺が先にいても、他の仲間の傍に行き、もう俺の隣りに座る事は無かった。
これでいい、そう思って授業と公務員試験に向けて集中した。
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