すれ違う気持ちと振る舞い

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「何?お前ら喧嘩でもしたの?」 あの夜、大イビキを掻いて寝ていた小島が声を掛けてきた。 「喧嘩?」 「最近全然、(つる)んでないじゃん」 「いや別に、前から連んでないけど」 「いやいや、いつも一緒だったじゃん」 側から見たら、そう見えていたのか。 確かに、大学で久喜に会わない日は無かった気がした。 もう、何日会っていないだろう。 「色々と、互いに忙しいから」 差し障りのない様に答えて、この場を去ろうとした。 「久喜、いつも夏目の事を探してるってか、気にしてるぜ」 小島の言った言葉に、足が止まった。 どうして? どうしてそんな、ドクリと胸が打つ。 「何か用でもあるのかな?」 何でも無い振りをして、笑って見せた。 「皆んなに、夏目見たか?って訊いて歩いてるぜ」 まだ何か文句が言い足りないのか?そんな風にも思って顔が引き攣る。 「あ、そうそう、来週の飲み会、夏目来る?今回は結構な人数が集まるみたいだぜ。珍しく久喜は来ないみたいだけど」 あいつが飲み会に来ないなんて珍しいよな、と笑いながら小島が言う。 「久喜が来ない?」 「女でも出来たんじゃん」 そう言って肩をすくめて手を上げる小島に、モヤモヤした俺の心が声を上げた。 「飲み会に行くよ」 「ん、じゃあ後で場所と時間、連絡するから」 手を上げて去ろうとした小島が、ふと足を止めて振り向いた。 「あ、でも何か久喜、夏目の事、本当に気にして元気なかった感じだったぜ。連絡してやれよ」 じゃ、また!と笑って背中を見せた。 元気ないって、何だよ。 久喜が俺を避けているんだろう。 講義室でも、久喜が俺の隣りに座る事は無くなった。 だから俺は、傷つくのが嫌で久喜と会わない様にしていた。 授業が一緒になる時は、講義の始まるギリギリに教室に入り、一番隅で授業を受けて、終わると同時に教室を出ていた。極力姿が見えない様に、必ず誰かの後ろに座って身体を屈んだ。 仲間と談笑する久喜を、どれだけ狂おしく思った事か。俺を探していたなどと、気にしていたなどと、そんな情報、今更欲しくない。 漸く、忘れられるかと思ったのに… 。 唇を噛んだ。
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