泥棒の極意

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「盗みに入るなら、さっきのおまえの家みたいな猫を飼っている家が一番いい。おれたちが食べても問題ないものが置いてあるからな。だが、一番は見つからずに入り、帰ってこられるかだ」  師匠——これからはそう呼べと大きな猫に言われた。ついでにオイラはトラという新しい名前をつけてもらった——は近くの家の庭に塀から侵入した。師匠は大きい体なのにふわりと跳び上がり、それはそれは美しい姿勢で着地した。オイラは真似したけれどどたどたしてしまって、静かにしろとにらまれた。  師匠は庭に入ってからしばらく家のほうをじっと眺めている。何をしているのかと訊ねてみると、家に人がいるか確認していると小さな声で答えてくれた。窓にそっと近づくと器用に前足であける。けれども師匠は中に入ろうとしない。オイラはその様子を静かに見守った。しばらくして師匠はオイラについてこいと言って、あけた窓の隙間から体を滑り込ませた。  師匠は勝手知ったる様子でまっすぐ台所へ向かった。そして戸棚の引き戸をこれまた器用にあける。中にはばっちゃんがよく食べさせてくれたごはんがたくさん入っていた。 「わぁ、いっぱい」 「ふたつだけもらっていくぞ」 「こんなにあるのに?」 「そうだ。少しずつもらうのがいいんだ」  師匠はひとつをオイラによこして、もうひとつを自分で咥えると、静かに引き戸を元に戻した。来た道を戻り、外に出ようとしたそのとき、ガサガサと音がした。
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