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「トラ。起きろ」
「……ばっちゃん?」
「違う。ばっちゃんはもう帰ってこないと言っただろう」
目をこすりながら起き上がると、師匠がオイラのことを見下ろしていた。目の近くに新しい傷ができている。
「師匠、ケガしてる」
「平気だ。こんなのすぐ治る」
「白猫はどうしたの」
「尻尾に噛みついてやったらひるんだからその隙に逃げてきた」
「そっか……」
オイラはケンカって好きじゃないなあ。白猫もひどいケガじゃないといいけれど。
「なるべく見つからずに帰ってくるのが一番いいんだ。危ないからな。それに、おれだって無意味に他のやつを傷つけたくはないさ。おれのリサーチ不足でトラを危険な目に遭わせてしまったな。申し訳ない」
「師匠、そっちの傷はどうしたの。やっぱりケンカしたときに?」
「これはな、昔人間に付けられたんだ。元飼い主ってやつだな。人間ってやつは信用ならねえ。トラも用心しろよ」
師匠は頬の傷を擦りながら吐き捨てるように言った。オイラはなんだか悲しい気持ちになったな。
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