秋、金木犀が香る日。

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『いつ帰ってくるの?』 『10月頭』 『8とかどう?』 『昼ならあいてるわ』 『お昼食べよ!13時どう?』 『いつものとこでいい?予約とる』 『お願いしまーす』 『とれた。8日の13時な!』 たったのこれだけ。終了である。 いつも短くて早く終わる連絡が、最近は仕事の丁寧な連絡が立て込んでいたこともあって、なんだか懐かしかった。 ほうと息を吐いて、顔を上げる。 ポプラの枝先が、あまりに秋らしく、あまりに美しく夕日に照らされて紅葉している。 秋は好きだ。紅葉はきれいだし、お洋服はかわいいし、気温もちょうどいいし。 大学時代、構内であんなに金木犀を見かけたのに、今住んでいる街には、金木犀は咲かない。 代わりに、さらりと吹いた風が、今朝つけた香水の香りを巻き上げた。 秋には必ず金木犀の香りをつける。私は期間限定、地域限定の品に弱いんだ。 春には桜の香りだし、夏にはレモンだし、冬には薔薇だし、あまりにも気まぐれ。 8日も金木犀の香りをつけようと思った。 「俺の中で金木犀のひとだもん、お前」 いつかの彼が笑ったときから、食事会では必ず金木犀の香りをつける。
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