知らないふり ―赤の他人を演じる―

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知らないふり ―赤の他人を演じる―

 オレは いわゆるヤンキーの、萩原(はぎわら) 二郎(じろう)。 中学時代からの不良で、大人になった今も変わっていない。  たった今、コンビニへカツアゲに行くところだ。  辺りが薄暗くなったころ、オレは家を出た。 2〜3分 歩を進めると、コンビニに着く。  オレは、何かガキがいないかと首をキョロキョロさせる。 しかしながら、ガキは愚か人っ子ひとりいなかった。  オレは若干 悔しいながらも、コンビニの中へ入った。 「ちーす」  その時だった。 レジカウンターに、どこか見覚えのある者がいた。  茶色い髪。 丸い相好(そうごう)。 彼女はまさしく中学時代の同級生、小原(おばら) 令子(れいこ)さんだった。  20年以上経っているというのに、気付いたオレの勘がいい。 でも、中学時代の容姿には似つかない おばさんになっている。  オレは戸惑いを隠せず、小原さんに背を向け、カニ歩きで店内に入った。  ギラギラとした金髪。 金のネックレス。 そして、サングラス。 こんなオレの姿を見られたら最悪だ。  気付かれないように工夫し、缶ビールのスーパーツヴァイを2本持って、恐る恐るレジに来た。  小原さんは、手際よくバーコードを通したが、ピンと表情を変えた。 「合計624円になります……あ!」  とうとう気付かれてしまった。 オレは、結露した缶ビールのように、冷や汗が滴り落ちる。 「もしかして……萩原 二郎さんですよね?」  オレは、咄嗟(とっさ)に赤の他人を演じた。 「誰ですかねその人は? オレは知りませんけど……。 誰か捜しているのですか?」  必死に赤の他人になりきった。 しかし、小原さんは嬉しそうな顔をした。 「この派手な格好、萩原さんに決まってますよ! ほら、中学時代の小原ですよ」 「小原さん……誰でしょうか。 とにかく、缶ビールを買いに来ただけですが……」  小原さんは、痺れを切らしたように口を開いた。 「いい加減、薄情しなさい! それまで、缶ビールはお預けよ!」 (まずい……最悪の事態だ。 バレた。 完全にバレた……)  だが、オレはカッとなってしまった。 「ってやんでい! 缶ビールくらい買わせろ! 全く、なんて日だ!」  小原さんは怯まず、俺を指差した。 「あー! その口調は、やっぱり萩原さんですね!」  結局バレてしまった――。
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