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変身を解く
アマギは控室に入るとまず、着ていたドレスを脱ぎ捨てる。
ドレスで形作られていた胸や腰のふくらみがドレスと一緒に脱ぎ捨てられた。細身だがうっすらと筋肉がついた均整の取れた肢体が現れる。
そして、銀髪のウィッグをそっと頭から外し、ウィッグスタンドにかける。
このウィッグはとても繊細な金属の繊維でできている。
元々はウィンドチャイムという、棒に糸でにつるされた何本もの金属の棒が奏でるシャラシャラいう音を元に考えられ、極限まで細くしなやかな金属繊維で作られた特別なウィッグだ。
そして、その金属で手を切らないようにはめていた爪までついた精巧な手袋も脱ぐ。
最後に化粧を落とす。
さっぱりとした顔の中学生くらいの男の子が出来上がった。
アマギは元々顔立ちの良いおとなしい男の子だった。
そして、素晴らしく綺麗なボーイソプラノをもっていた。
アマギのいる孤児院では、毎週日曜日に聖歌隊で歌うことが義務付けられていた。
そこでアマギのボーイソプラノにほれ込んだ大手プロダクションの社長が、結構な金額を提示して、孤児院に話をつけた。
それは、アマギのボーイソプラノの時期限定で、西暦3000年をはさむ記念イベントの活動をして、謎の全身楽器になる歌手に変身して活動すると言うものだった。
謎の金属音のする銀髪。美しい顔立ち、そして、美しいボーイソプラノ。男子だからこそできる激しいステップを踏みながらの歌唱。
アマギは夢中で、前身楽器の役を演じた。レッスンはとてもつらくて苦しかったけれど、苦にならなかった。
あっというまに売れっ子にはなったが、ギャラは孤児院に入っていく。
ただ、もうじき、この美しいボーイソプラノの時期は終わってしまう。
西暦3000年の記念イベントも減っていくだろう。
西暦3000年の頃は、孤児院の子どもは孤児院を15歳ででなければいけなかった。
孤児院を出なければいけないうえに、孤児院と契約を結んでいるプロダクションの、変身して演じることができなくなることはアマギにとっては死活問題だった。
そんな時、大手プロダクションから、孤児院を出た後も、新たな変身をして別の人間として舞台で演じて見ないかという話があった。
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大手プロダクションの社長は心の優しい人で、孤児院の院長がボーイソプラノでのアマギの稼ぎをすべて自分の懐に入れているのを見て、たいへん憤慨していた。
ボーイソプラノは神様からの贈り物のようなものだ。
孤児院を出た後のアマギを、あれだけ歌えたのだからと変声期を大事に育てて歌のレッスンを受けさせ、俳優になる為のレッスンなども社長が全部面倒を見てくれた。
2年ほどでアマギは大手プロダクションの舞台でミュージカルに出演することができるまでになった。もちろん、ギャラはきちんとアマギに支払われる。
いまやアマギは自分の大人になった美声で、思う存分ミュージカルの俳優として他の人物を演じることができる。
プロダクションもアマギというスターを手に入れ、本人がいることで、少年時代の夢のように美しかったアマギの正体を明かすこともアマギから了承を受け、大いに稼いでいる。
プロダクションの社長は心の中でつぶやく。
『WINWINだね!アマギ、この後も自分の為に頑張って演じるんだよ。』
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