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 ……ありえるかもしれない。 『……高戸?』  黙り込んだ私に、気遣うような声で瀬戸くんが名前を呼んだ。 「ありがとう、教えてくれて。早く交番に届けてくる」  八千万の価値がある他人のものが鞄の中にあるかもしれないと考えると、怖くて、私は鞄を抱えるように握り閉めた。  落とし物を拾ったともっと強く主張して、返せば良かった。  電話を切り、交番へ急ごうと歩きだそうとしたときだった。 「火事だ! 三日月商店街! 火の手が早くてもう何軒も燃え広がっているぞ!」  耳に入ってきた言葉に足を止めた。  アーケード商店街のお店の店主が、隣の店へそう言いながら駆け込んで行く。  三日月商店街?  小さな不安が過る。  奈智と待ち合わせた洋食屋は、三日月商店街にある。  私は電話を切ったばかりのスマートフォンに目を向けた。  画面の時計は、十七時半を指している。
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