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「……なんでいるの?」 「なんでって。帰ってくるわよ、自分家(じぶんち)だもん」  二日家をあけていた母は悪びれもせず、あっけらかんそう答えた。  母は男ができるとしょっちゅう家をあける。  さすがに私が小さい頃はそんなことはしなかったけど、中学生になったあたりからはそんな感じだ。  商店街のスナックに勤めていてもともと夜はいないし、苦手だと言って家事もあまりしない。  母はよく「親がいない人もいるんだし、いるだけあんた達は幸せ」なんて言うけど、お金もないのに贅沢するわ、暖房はがんがんかけるわ、部屋はちからすわで、家にいる方がやっかいだ。  キッチンテーブルで鏡をみながらマスカラをつけている母のまわりには、真新しいデパコスが散乱している。  また高いものを買ったのかと見ていた私の視線に気づくと、母は手に持っていたマスカラを振った。 「お店のお客さんに買って貰ったの。そんな睨まないでよ~」 「ご飯つくるから、そこ片付けて」 「あ、おにぎりでいいから。これからお店だし」  自分でつくってよ。  そう口にすれば、また別れた父に似ていると嫌みったらしく言われることはわかっている。  私は黙っておにぎりの代わりに、パンの袋を母に渡した。 「何、店長から? 貢いで貰うなんて、さすが私の娘。お店にもまた来てねって伝えてよ~」  怒ったら駄目だ。そう思うのに感情が抑えられない。 「一緒にしないで。人に何か買って貰わないと生活できないなんて、恥ずかしいと思わないの?!」  自分が思ったよりも、強い口調で吐き出した。  さっきまでペラペラ喋っていた母は、私の言葉に黙り込んで何か考える素振りをすると、猫か熊かわからないパンを取り出して一口かじった。 「……私だってねぇ、ちゃんと考えてるんだから」
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