乾杯の後に…

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アイリッシュ・パブの店内はすでに満席で、立って飲む客も増えてきた。人の話し声とBGMでかなり騒々しい。けれどカウンター席に座った聡と彩はホールに背を向けているため、他人のことは気にならなかった。むしろ雑音が大きくなった分、ふたりで寄り添うように顔を近づけて話していると、結婚前にデートを繰り返していた頃の親密さに戻ったようだった。 「この満期払い戻し金って、あなたのだから…」 「いいよ、それは彩のために掛けてた保険だったんだから」 「ずっと掛け金を支払ってくれてたんだよね、離婚してから後も…。保険会社から連絡があって驚いちゃった。それも離婚した後は、受取人名義もアタシの旧姓に戻してくれて…」 「ハハハ…保険会社のヤツに説明するのに苦労したけどね…。だけど名義もちゃんと彩のものになっているんだし、気にしないで受け取っていいんだよ」 「じゃあ、半分ずつに分けようよ。入ったお金の半分をあなたの口座に振り込むから、それでいいことにしよっ…」 しばらく躊躇してから、彩は想っていた事を口にした。 「アタシ達、いま結婚したら、うまくやっていけたかも…ね」
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